最終更新:
mototemplate 2022年08月20日(土) 16:08:44履歴
【岡田史子:インタビュー第二部】
まんだらけZENBU No.4
出版社:まんだらけ出版部
発売日:1999年09月01日

資料提供:https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/gcomic/164958...
「まんだらけ ZENBU No.4」279-287ページ
(図版に続いてテキスト抽出あり)
インタビュー第二部
没にした理由、そして同人誌時代
著者自身による全解説
聞き手・赤田祐一



インタビュー第二部
没にした理由、そして同人誌時代
著者自身による全解説
聞き手・赤田祐一
このインタヴューは、『限定版・岡田史子未発表作品集 1966-1988』の原画コピーを、掲載順に著者である岡田史子本人に見ていただき、印象に残っていることなど語っていただいた記録です。
これを読んでいる読者の皆さん、どうか、岡田史子さんのマンガを、古本屋を探しまわってでも手に入れて読んでみてください。そうすれば、どれほど魅力的なマンガかがわかります。(赤田)
赤田:このイラストは、カラー・ページに載せるんですが、昔、「ブランコ」というマンガをお描きになっていたそうですね。青島広志さんに調べていただいたんですが、結局、原画の行方がわからないんですね。描いたこと覚えてます?
岡田:いえ、覚えてないです。全然。この間、青島くんからお電話が来て、「ブランコ」っていう作品を描いたんですよって、言われたんだけど、全く思い出せないんですね。
赤田:はあ。「黒猫」という絵をスケッチブックに描かれているんですが、マンガ化の構想はあったんですか?
岡田:のちに「黒猫」というのを描いてますから、あったのかもしれませんね。
赤田:ポーの「黒猫」のイメージですか?
岡田:じゃないと思います。
赤田:猫のカットが、すごく多いですね。
岡田:うん好きですから。
赤田:今も飼ってるんですか?
岡田:飼ってるんですけど、二、三日前、窓から出ていったきり帰ってこなくて……。
赤田:心配ですね。
岡田:ええ。今、心配してるところなんです。
赤田:前は戻ってきたんですか?
岡田:久しぶりに窓開けて……。窓を開けると怖がる猫だったんで、出ていくとは夢にも思わなかったんですけどね。それが出て行っちゃったもんだから、心配で。
赤田:まだ小っちゃいんですか?
岡田:いえ、もう一歳はすぎてますね、もと野良猫だったから、 野良猫に戻った方が幸せなのかなぁとか思ったんですけど。
赤田:これは昔の写真ですけど、右が岡田さんですよね。
岡田:はい。
赤田:左の女性はどなたですか?
岡田:わかりません。全然憶えてないです。
赤田:「奇人クラブ」関係の集会か何か?
岡田:この服を着てるってことは、大阪でファンの集いみたいなのが「COM」の主催であったんですよ。その時の写真かもしれないですね。あの時女性と会った覚えはないけど。
赤田:洋服は憶えてます?
岡田:うん、この服はめったに着なかったんで憶えてるんですよ。
赤田:これは覚えてます? 表紙をお描きになって、題字は同人の木村満男さんではないかという話です。ここまでの絵をカラーで載せたいと思ってるんです。次は「オルベとユリデ」ですが。
岡田:そんなに古くないですよ。20歳のときに描いたものです。
赤田:それは「COM」用だったってことですか?
岡田 :「COM」に載せようと思って描いたものですけど、出来が良くないんでやめたっていう……。
赤田:自分から没にしたんですね。どの辺が引っかかったんですか。
岡田:やっぱり男女二人しか出なくて、二人の会話で終始してるっていうあたりが気に食わなかったんだと……。
赤田:次にこのカットを使って、中原中也の詩の引用なんですけど絵は「サンルームのひるさがり」ですね。
岡田:うん。そうですね。
赤田:これを青島高広さんが所持してらしたんです。なんかサランラップみたいのを絵にかけて、大切にしてましたよ(笑)。
岡田:うふふふふ…(笑)。
赤田:それで、次に「レクエム」を使いたいなと。
岡田:はい。これもデビューしてから描いたものです。「COM」に載せてもらおうと思って描いたものだと思うんだけど、どうして途中でやめたんだかわからないです。
赤田:最初の五、六ページだけ、ペン入れしてるんですね。
岡田:ええ、ペン入れしてなくても載せられるんですか?
赤田:むしろ、そのまま載せたほうが面白いんじゃないかなって。逆に今、ペン入れしてもらっても、全然うものになるから。
岡田:それはそうですね。
赤田:これ、表紙が二種類あったんですけど、何か意味があったんですか? ほとんど構図は同じなんですけど、書き込んである絵と、そうじゃない絵と。
岡田:どっちかが気にいらなかったんじゃないですか。
赤田:没にしてしまった理由とか覚えてないですか?
岡田:その理由がどうも思いだせませんね。今読んでみたら、 そんなに変な作品でもないと思うんですけど。
赤田:宗教的な話でしたね。
岡田:私 クリスチャンでもなかったのにね。当時はね。なんでそんなもの描いたんだか……わからない(笑)。
赤田:教会には行ってたけど、クリスチャンではなかったということですか?
岡田:いえ、教会も行ったことなかったですよ。高校生の時でしたけど。
赤田:中学生の時、教会に行ったと言ってませんでした?
岡田:子供の頃に日曜学校に行ったくらいで、教会とはまったく縁がなかったですね。
赤田:次に五ページ開いてしまうんで、この「ワーレンカ」風のカット使えないかなと。
岡田:いいカットですけど……。これは誰が持ってたんですか?
赤田:青島さんのスケッチブックに描いてありましたね。
岡田:はあ。
赤田:これなんかキャラクターになりそうですけどね。
岡田:そうですよねえ。
赤田:「テリー」という作品は、「アサヒグラフ」に一回、小さく縮小されてですけど発表しましたね。これも20歳くらいに描かれたもののようですね。
岡田:いや、もうちょっと年くってましたね。たしか結婚してからだったと思いましたけど……。
赤田:そうですか。一九七二年みたいですね。
岡田:72年……。21歳ですか。 まだ結婚してないんだなあ……。
赤田:これも没にした理由というのは。
岡田:嫌らしいからじゃないですか。
赤田:そうですか。セックスのことについてですか?
岡田:中身がなんか、裸の場面が出てくるし(笑)。
赤田:これ、ちゃんと最後までペン入れして没にしたんですね。
岡田:いえ。最後までペン入れはしてないんですよ。「アサヒグラフ」に載るんで、仕上げたんです。
赤田:そうなんですか。じゃあ下描きだけだったんですね。
岡田:ええ。
赤田:その次にですね、「黄色のジャン」。ものすごく可愛いらしい作品で、僕は一番くらいに好きなんですけど、後のページの裏に筆で岡田さんが文章書いてらして「これは今を去ること9カ月前の作品です。「火焔」の新構想が未だまとまっていませんので今回はカンベンしてもらいます。絵も内容もおそまつくんですが、ムードとして私のものを代表しているものです、これは。」とありますが、これ、憶えてることとかありますか?
岡田:うーん、憶えてませんね。なんかキャラクター的には、「COM」に載った作品と似てるかな。「COM」に載ってNTTの作品集にも載りましたけど、「フライハイトと白い骨」ていう、あれに似てると思いません?
赤田:初期の少女マンガの感じと、レイモン・ペイネとかのフランスっぽい感じと、なんか混合してるって感じですけど。
岡田:でも心配してたほど下手くそじゃないですね(笑)。もっと稚拙なものだと思ってた……。
赤田:その次に「耳なしホッホ」の話を載っけたいと思って。
岡田:そのタイトルは覚えてますね。
赤田:これは多分ヴァン・ゴッホのことみたいですね。
岡田:うーん多分。
赤田:これもやはり、最後のページの裏に、こう言いてあります。「これはヴィンセント・ヴァン・ゴッホのことをかこうとしたものですが、思いつきを「発作的」にかいたので、こんなものになりました。フリッカという婦人は仮想です」と。
岡田:なーんにも憶えてないですね。それ同人誌に載ってたやつですか?
赤田:そうですね。「けむり」ですね。「けむり」八号と画稿に書いてあります。一九六六年、はじめ季刊だった「墨汁一滴」って言ってたのが、あとで名前変えて隔月刊の「けむり」になったみたいですね。
岡田:「墨汁一滴」っていうのは●●(判読不明)だったからでしょ。
赤田:あの石森章太郎の作っていた同人志にもありますよね。
岡田:そうそう。
赤田:これは、「かえん」と読ませるんですか? 三本描いてらっしゃるんですね。
岡田:同じタイトルで?
赤田:ええ。最後のだけは、正確に言うとローマ字で「kaen」と描いてましたけど。これは、けっこう力入っていてかなり複雑な話ですね。精神病院の話ですけど、これも記憶に無いですか?
岡田:無いです。
赤田:多分これは、生まれて初めて描いた長めの連作なんじゃないですか? 石森章太郎の「ジュン」とか、ああいう実験的なことを描いてると思うんですが。
岡田:うん。
赤田:最後にこの「kaen」描いてらっしゃいますね。レド=アールってキャラクター、もうここで登場してくるんですね。
岡田:それは、この間、青島君から聞いたんですけど、私ビックリしたんですよ(笑)。レド=アールって「ガラス玉」で初めて出てきたと思い込んでたから、その前に描いてたとは全然思いませんでした。「レド=アールって名前どこから出てきたの」って聞かれたんですけど、答えられなくて……。わからないんです。
赤田:何かヒントとかありましたか?
岡田:もし、ヒントがあったとすれば、サルトルだと思うんですけど。当時サルトルに凝ってましたから(笑)。
赤田:「フライハイト」って言葉も出てきましたね。
岡田:「フライハイト」っていうのは、北杜夫からですね。
赤田:ドイツ語で「自由」?
岡田:うん。
赤田:北杜夫さんの、どんな作品なんですか?
岡田:なんだったかなぁ? 短編です。タイトル忘れましたけど、精神病院に入院してる分裂症の患者が「フライハイト」としか言わないという、お話でしたけど、 (編註・未見だが、「夜と霧の隅で」という短編らしい)
赤田:「kaen」は、デビュー以前の、評論家の物議をかもしそうな問題作という感じがしましたね。
岡田:問題作ですか(笑)。
赤田:これは、「岡田史子の匣」というのですよね?
岡田:ええ。
赤田:エッセイみたいな感じで、親近雑記作品を描いてらして面白いので、入れたいなって思って、すごくハードな作品が続いたんで息抜きみたいなものをという思いがあって(笑)。子供の頃の目標とか夢の話とか、線画で描いてますね。この詩はご自分で作った歌なんですか?
岡田:自分だと思いますけどね。
赤田:この「車中にて」も自分で作ってる詩なんですよね。
岡田:ええ。
赤田:高校時代、文芸同好会にいたころの詩ですか?
岡田:ええ、文芸部にはずっと在籍してましたから。
赤田:猫の画文がすごく多いんですけど。子供の頃から飼ってらっしゃるんですか?
岡田:子供の頃から切らしたことは無かったですね。
赤田:これも猫ですね。画稿の裏に、猫について、こんなことが書いてありますね「猫──ボードレールにうたわれた近代のデカダンスの象徴、孤高をこのみ、キゾク的。人の言うことを聞かない。独立精神あり」と。これは青島さんのスケッチブックにあったんですけど、なんか、「ネバーエンディングストーリー」みたいな(笑)。
岡田:うふふふふふふ…(笑)。
赤田:すごくいいなと思ったんですけど、この死亡広告も、猫のですね。
岡田:あの、こういう顔をした猫を飼ってたんです。
赤田:そうですか。それは本当に亡くなったんですか?
岡田:うん。私がちょうど20歳の時に。ちょうど10歳の時にもらってきて、ちょうど20歳の時に亡くなったという……。
赤田:けっこう楽しそうに描いてますよね(笑)。
岡田:ふふ(笑)。
赤田:これは、「DO YOUNG」という若者雑誌があって、ここに岡田さんのインタヴューが載ってらして、このミニスカート姿は、昔の写真みたいですけど。
岡田:うわー、全然記憶ない。なんだろう?
赤田:漫画家の卵の取材ってことで。
岡田:これ私の絵じゃないですよね。
赤田:いえ、岡田史子と書いてありますから。
岡田:これ、私が描いたんですか?
赤田:ええ(笑)。
岡田:ふふふふ(笑)。
赤田:だと思いますよ。覚えてないですか?
岡田:ええ。
赤田:インタヴューに続いてイラスト連作が載ってるんですよ。「海の底の日よう日」。レイモン・ペイネみたいですね。このころ 「COM」以外ではマンガ描くこと珍しかったんじゃないですか。一九七〇年ですね。
岡田:覚えてるはずだけど、全然覚えてないなあ……。
赤田:これはビートルズの歌ですね。
岡田:はい。
赤田:「アンド・アイ・ラブ・ハー」の歌詞。これも歌ものですね。サイモン&ガーファンクル。これも青島さんのスケッチブックですが。これにもレド=アールが出てきますね。そして、これはちょっと古典的な着物の女性を描いたカットですよね。
岡田:かわいい。
赤田:このカットに続けて「みず色の人形」のを載せようと。これも青島さんからお借りしたんですけど。
岡田:これ全部ありました?
赤田:ありました。これ、岡田史子として第二作目だって聞いたんですけど?
岡田:「太陽と骸骨のような少年」の前か後かは、はっきりしないんですけど。
赤田:それまでほとんどの作品は、高田冨美子、名義で描かれているんですよね。「みず色の人形」は、思い出とかありますか? 今までとは違うタッチで、これまでを知る人から見たらビックリするような作品ですよね。
岡田:「ハムレット」とか描きたかったんですよ。当時はソ連製の「ハムレット」の映画が公開されまして、それを観てすごいシビレちゃって、「ハムレット」描きたかったんですよね。だけど、出演していたハムレット役のイノケンティ・スモクトゥノブスキーっていう俳優の顔をマンガにするのが難しくて、どうしても描けなかったんですよね。
赤田:顔が難しかったんですか?
岡田:あまりに立派な顔で、マンガにならなかったんですね。
赤田:ディフォルメが出来ないってことですか*
岡田:うん。ディフォルメがうまくいかなかったんですよ! 一生懸命やったんですけどね。ものすごく整っていて、ほりが深くて……。後にほりの深い顔も描いてますけど、当時は描けなかったんですよ。それで「ハムレット」を描くのをあきらめて、それを描いたんですよ。それもハムレットを下敷きにした、時代劇です。
赤田:なんで日本の時代を劇翻案したんでしょうか?
岡田:やっばり「ハムレット」は、外国ものがだめなら日本もので、日本ものなら昔の話ですから時代劇ってことになるんじゃないんですかね。現代もので「ハムレット」は描けないでしょう。
赤田:この男の子は、手塚治虫の「新撰組」とか、面影がありますよね。これは16の時に描いた作品で、里中満智子が13でデビューした記事を何かで知り、発奮したという話ですよね?
岡田:はい。
赤田:はじめ、これは水野英子さんの元に送ったんですか?
岡田:そうです。それで卒業して上京してから、村岡先生と一緒に「どうでしたか?」と聞きに行ったんです。でも、「あまりにも私とは世界が違いすぎて、何も言えない」と言われて返されましたよ。それっきり……。好きだったんですよ「白いトロイカ」かなんか夢中になって読んで、全部読みましたからね。
赤田:かなり内面みたいなことが少女マンガの絵柄で描かれていて、商業誌には絶対載らないという気がしましたね。複雑すぎるというか……。思い出深い作品ではあるんですか?
岡田:思い出はありますね。
赤田:原稿を青島さんに預けられたというか、上野駅で渡されたと言ってましたけど。
岡田:ああ、そうですか。それはもう全然憶えてなかったんですけどね。無くなったと思ってましたから。だから、青島君から「自分が持ってる」って聞いたときは嬉しかったです
赤田:大事な作品なんですね。
岡田:ええ。思い出ありますからね。
赤田:結局「みず色の人形」って、水死体の事ですよね。
岡田:はい。
赤田:すごく残酷な話で。
岡田:「ハムレット」だから残酷ですよ。
赤田:最後に、この「静和荘の話」と「輝うつばめ」なんですけど、発表月の順番と掲載順番が逆なんですけど、まあその方が据わりがいいかなと思うんで、こうしようかなと。これも、自殺しちゃうお話ですよね。
岡田:そうなんです。
赤田:アパートのモデルとか、あったんですか?
岡田:あります。静内に「静和荘」ってあるんですよ。そのものズバリの元・病院で、今はアパートっていう建物があって、とにかくもう、入ると妙な匂いがしてね、汚くて、お化けでも出そうな雰囲気でした。
赤田:空き家だったんですか?
岡田:いえ人は住んでました。
赤田:知りあいがいたりして、ということで?
岡田:いえ。知りあいもいませんでした。「アサヒグラフ」の取材の時に写真のバックを探してカメラマンの人と町中歩き回ったんですよ。その時にカメラマンの人が汚いバックが好きな人で(笑)、ここのアパートいいって言って入って、廊下で何枚も写真撮ったんですけどね。その時に私も、このアパートいいなって思ったんですよ。
赤田:その時初めて入ったんですか?
岡田:ええ。それで100枚くらい描いたかな。静和荘の話は。
赤田:100枚! これ以外にですか?
岡田:ええこれ以外に、100枚くらい静和荘の話を描いたんですけど、どうしてもまとまらなくて、で、こんな形でまとめて逃げちゃったんですね。
赤田:じゃ、これは無理矢理まとめたという感じですか?
岡田:そんな感じですね。もっともっと苦しくて、猫は自殺なんかしないんですよ。そんな話だったんですけど。
赤田:最後のフランス語は、なにかの引用ですか。なんて読むんですか?
岡田:忘れちゃいましたね。それは削って載せてもかまいません。意味ないと思いますから…。
赤田:載せた方が面白いんじゃないですか。「輝うつばめ」は何か思い出あります?
岡田:それはですね、マーチン・シーンっていうアメリカの映画俳優ご存知です?
赤田:あの「地獄の黙示録」の、ウィラード大尉ですか?
岡田:そう、「地獄の黙示録」観て、マーチン・シーンの大フアンになちゃったんですよ。それでね、調べたらマーチン・シーンっていうのは「輝うつばめ」っていう意味だったんですね。
赤田:いい名前ですね。
岡田:ええ。それで、なんとか「輝うつばめ」っていう題名でマンガ描きたいなって思って。
赤田:まずタイトルありきでイメージが出来ていったわけですね。マーチン・シーンって、こんな顔してましたっけ?
岡田:うん。そんなに特徴のある顔じゃないですよね。 最近特におじさんの顔のイメージが強くて、若い頃の顔忘れちゃったから。
赤田:最近も映画に出演してますか?
岡田:最近もレンタルビデオなんかで見つければ、観るようにはしてるんですけど、おじさんになったらつまらない人ですよ。
赤田:これ「夏」のカットだと思うんですけど。マンガとは少し違うカットみたいですね。構図は同じだと思うんですけどね。
岡田:ええ。
赤田:村上知彦さんの解説を九ページに渡って載せて、それから村岡栄一さんの原稿が三ページ入ります。後になにか後書きみたいな感じで、短い覚え書きみたいなのも書いていただけないでしょうか?
岡田:いいですよ。
赤田:そういう流れにしようかなっと思ってます。特に何か、今の流れで問題はありますか?
岡田:いや。とにかく下手じゃなかったんで安心しました。とっても安心しました(笑)。
赤田:もっと稚拙というか……?
岡田:もっとひどいものばっかりだろうなと思っていたんで。すごく、ほっとしました。
赤田:じゃあ、そういう感じで構成させてもらいますので、よろしくお願いします。
岡田:はい。
*
赤田:もう少し、最近の近況とか、どんなふうに過ごしてるとか、「奇人クラブ」のこととか、お聞きしたいなと思うんですけど。
岡田:「奇人クラブ」のことは、ほとんど覚えてないですね。毎月、池袋の「漠」っていう喫茶店に集まって、おしゃべりしてたってことしか憶えてないですね。
赤田:全員中学生だったんですか?
岡田:当時はそうだったみたいですね。
赤田:村岡さんが初代の会長で、岡田さんが五代目の会長?
岡田:私も会長になったことありますね。一年くらいやったんでしょうかね。あんまりよく覚えてませんけども。東考社から本出してもらいましたよね。あの編集をした覚えはあります。
赤田:ああ、「アイ」ですね。「アイ」の二号を編集されてますね。 あと「ぜんしん」っていう手書きの通信紙があって、それも作ってらしたようですね。
岡田:そうですか。
赤田:最近のこととかもお聞きしたいんですけど、去年ですが、保険の外交の仕事を辞めて、今は勤めてはいないんですか。
岡田:ええ。
赤田:小説書いているんですか。
岡田:ええ。小説書いてます。
赤田:書き貯めていらっしゃるんですか。
岡田:書き貯めてませんね、どんどん応募してます。
赤田:どうですか? 反応は。
岡田:全然だめですよ。
赤田:文芸誌に応募してるんですか?
岡田:ええ。
赤田:「文学界」みたいな?
岡田:「文学界」は純文字なんで、避けてますけどね。私、純文学はやる気ないんで。
赤田:エンタテイメントみたいのですか?
岡田:ええ。
赤田:へえー。じゃあ、もう何本かお話は書いてるんですね。例えば、ミステリとかそういうスタイルですか?
岡田:ミステリはだめです。
赤田:じゃ、どんなお話くんですか?
岡田:恋愛ものですよ。恋愛もので、若い人も出てきますけど、やっぱり自分が中年だから、中年が多いですね。中年の恋愛。
赤田:「失楽園」とか読みました?
岡田:不倫も好きじゃないんですよね。私はね。
赤田:純愛ですか? 純愛でエンタテイメントっていうと、なかなか難しいかもしれないですね。
岡田:難しいですよ。それでハッピーエンドにしたいんですよね。そうすると軽ーくなっちゃうでしょ。なかなか難しいです。
赤田:あまりミステリには興味ないですか?
岡田:ミステリは、読んだり、テレビドラマとか見たりするのは好きなんですけど、自分ではやりたくないですね。第一、頭悪いから、トリックとか考えられないし。
赤田:昼間はパソコンに向かって文字を書いたりとか。
岡田:うん。キーボード、カタカタやって……。夜はテレビ見て。
赤田:散歩も日課なんですよね。
岡田:そう、夕方散歩して。
赤田:北海道は、日差し強いですね。なんか、髪形のせいでしょうか、以前よりもショートカットになさっていて。一年半前にお会いした時よりも、痩せられたような感じがしますけど。
岡田:ああ、そうですか? 髪形のせいもあるかもしれないけど、会社辞めてから一日二食で朝と夜だけにしたんですよ。あまり動かないのに食べてたら太るからと思って。でも、黒いから引き締まって見えるだけかもしれないし。
赤田:他の人のマンガはやっぱり、読まないですか?
岡田:ええ。
赤田:映画は観ますか?
岡田:ええ、映画は観ます。
赤田:最近気に入った作品とかありました?
岡田:「ハムナプトラ」とか面白かったです。ちょっと昔のエジプトが舞台で、ミイラが生き返って暴れるっていう話なんですけど。それで、財宝が隠されていてどうのこうのって。冒険活劇、アクションドラマって感じ(笑)。
赤田:ハリウッドの映画?
岡田:ハリウッドの有名な俳優は一人も出てないんですけどもね。なかなか楽しかったですよ。
赤田:どういう基準で選んでるのですか?
岡田:「ハムナプトラ」は映画館で観ました。
赤田:最近、マンガを描く気力というのは……。
岡田:今はないですね。アイデアも全然ないし、文字もまともに書けない。
赤田:「週刊新潮」で答えてらして驚いたんですが、手が震えて動かないとか。
岡田:それもありますね。もう細かい仕事出来ないですよ。マンガって根気仕事でしょ。年で根気が無くなってきちゃってるから。
赤田:お会いしたときに「マンガって、テーマに命懸けないと、ちゃんとしたものにならない」っておしゃったことが、印象的で。身を削って描かなくてはならないって感じですよね。小説の方が、もうちょっと自分を客観的に見て書けるんですか。
岡田:小説を書く時は自分を見ないですね。自分よりも人を見て、自分は恋愛してないですから。
(一九九九年七月三十一日 札幌グランドホテル)
「まんだらけZENBU No.4」278-291ページ
【岡田史子:まんだらけZENBU No.4】
【岡田史子:インタビュー第一部】テキスト抽出あり
【岡田史子:インタビュー第二部】テキスト抽出あり
【岡田史子について:青島広志】テキスト抽出あり
【岡田史子作品リスト:青島広志】
【岡田史子について:山口芳則】テキスト抽出あり
まんだらけZENBU No.4
出版社:まんだらけ出版部
発売日:1999年09月01日

資料提供:https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/gcomic/164958...
「まんだらけ ZENBU No.4」279-287ページ
(図版に続いてテキスト抽出あり)
インタビュー第二部
没にした理由、そして同人誌時代
著者自身による全解説
聞き手・赤田祐一



インタビュー第二部
没にした理由、そして同人誌時代
著者自身による全解説
聞き手・赤田祐一
このインタヴューは、『限定版・岡田史子未発表作品集 1966-1988』の原画コピーを、掲載順に著者である岡田史子本人に見ていただき、印象に残っていることなど語っていただいた記録です。
これを読んでいる読者の皆さん、どうか、岡田史子さんのマンガを、古本屋を探しまわってでも手に入れて読んでみてください。そうすれば、どれほど魅力的なマンガかがわかります。(赤田)
赤田:このイラストは、カラー・ページに載せるんですが、昔、「ブランコ」というマンガをお描きになっていたそうですね。青島広志さんに調べていただいたんですが、結局、原画の行方がわからないんですね。描いたこと覚えてます?
岡田:いえ、覚えてないです。全然。この間、青島くんからお電話が来て、「ブランコ」っていう作品を描いたんですよって、言われたんだけど、全く思い出せないんですね。
赤田:はあ。「黒猫」という絵をスケッチブックに描かれているんですが、マンガ化の構想はあったんですか?
岡田:のちに「黒猫」というのを描いてますから、あったのかもしれませんね。
赤田:ポーの「黒猫」のイメージですか?
岡田:じゃないと思います。
赤田:猫のカットが、すごく多いですね。
岡田:うん好きですから。
赤田:今も飼ってるんですか?
岡田:飼ってるんですけど、二、三日前、窓から出ていったきり帰ってこなくて……。
赤田:心配ですね。
岡田:ええ。今、心配してるところなんです。
赤田:前は戻ってきたんですか?
岡田:久しぶりに窓開けて……。窓を開けると怖がる猫だったんで、出ていくとは夢にも思わなかったんですけどね。それが出て行っちゃったもんだから、心配で。
赤田:まだ小っちゃいんですか?
岡田:いえ、もう一歳はすぎてますね、もと野良猫だったから、 野良猫に戻った方が幸せなのかなぁとか思ったんですけど。
赤田:これは昔の写真ですけど、右が岡田さんですよね。
岡田:はい。
赤田:左の女性はどなたですか?
岡田:わかりません。全然憶えてないです。
赤田:「奇人クラブ」関係の集会か何か?
岡田:この服を着てるってことは、大阪でファンの集いみたいなのが「COM」の主催であったんですよ。その時の写真かもしれないですね。あの時女性と会った覚えはないけど。
赤田:洋服は憶えてます?
岡田:うん、この服はめったに着なかったんで憶えてるんですよ。
赤田:これは覚えてます? 表紙をお描きになって、題字は同人の木村満男さんではないかという話です。ここまでの絵をカラーで載せたいと思ってるんです。次は「オルベとユリデ」ですが。
岡田:そんなに古くないですよ。20歳のときに描いたものです。
赤田:それは「COM」用だったってことですか?
岡田 :「COM」に載せようと思って描いたものですけど、出来が良くないんでやめたっていう……。
赤田:自分から没にしたんですね。どの辺が引っかかったんですか。
岡田:やっぱり男女二人しか出なくて、二人の会話で終始してるっていうあたりが気に食わなかったんだと……。
赤田:次にこのカットを使って、中原中也の詩の引用なんですけど絵は「サンルームのひるさがり」ですね。
岡田:うん。そうですね。
赤田:これを青島高広さんが所持してらしたんです。なんかサランラップみたいのを絵にかけて、大切にしてましたよ(笑)。
岡田:うふふふふ…(笑)。
赤田:それで、次に「レクエム」を使いたいなと。
岡田:はい。これもデビューしてから描いたものです。「COM」に載せてもらおうと思って描いたものだと思うんだけど、どうして途中でやめたんだかわからないです。
赤田:最初の五、六ページだけ、ペン入れしてるんですね。
岡田:ええ、ペン入れしてなくても載せられるんですか?
赤田:むしろ、そのまま載せたほうが面白いんじゃないかなって。逆に今、ペン入れしてもらっても、全然うものになるから。
岡田:それはそうですね。
赤田:これ、表紙が二種類あったんですけど、何か意味があったんですか? ほとんど構図は同じなんですけど、書き込んである絵と、そうじゃない絵と。
岡田:どっちかが気にいらなかったんじゃないですか。
赤田:没にしてしまった理由とか覚えてないですか?
岡田:その理由がどうも思いだせませんね。今読んでみたら、 そんなに変な作品でもないと思うんですけど。
赤田:宗教的な話でしたね。
岡田:私 クリスチャンでもなかったのにね。当時はね。なんでそんなもの描いたんだか……わからない(笑)。
赤田:教会には行ってたけど、クリスチャンではなかったということですか?
岡田:いえ、教会も行ったことなかったですよ。高校生の時でしたけど。
赤田:中学生の時、教会に行ったと言ってませんでした?
岡田:子供の頃に日曜学校に行ったくらいで、教会とはまったく縁がなかったですね。
赤田:次に五ページ開いてしまうんで、この「ワーレンカ」風のカット使えないかなと。
岡田:いいカットですけど……。これは誰が持ってたんですか?
赤田:青島さんのスケッチブックに描いてありましたね。
岡田:はあ。
赤田:これなんかキャラクターになりそうですけどね。
岡田:そうですよねえ。
赤田:「テリー」という作品は、「アサヒグラフ」に一回、小さく縮小されてですけど発表しましたね。これも20歳くらいに描かれたもののようですね。
岡田:いや、もうちょっと年くってましたね。たしか結婚してからだったと思いましたけど……。
赤田:そうですか。一九七二年みたいですね。
岡田:72年……。21歳ですか。 まだ結婚してないんだなあ……。
赤田:これも没にした理由というのは。
岡田:嫌らしいからじゃないですか。
赤田:そうですか。セックスのことについてですか?
岡田:中身がなんか、裸の場面が出てくるし(笑)。
赤田:これ、ちゃんと最後までペン入れして没にしたんですね。
岡田:いえ。最後までペン入れはしてないんですよ。「アサヒグラフ」に載るんで、仕上げたんです。
赤田:そうなんですか。じゃあ下描きだけだったんですね。
岡田:ええ。
赤田:その次にですね、「黄色のジャン」。ものすごく可愛いらしい作品で、僕は一番くらいに好きなんですけど、後のページの裏に筆で岡田さんが文章書いてらして「これは今を去ること9カ月前の作品です。「火焔」の新構想が未だまとまっていませんので今回はカンベンしてもらいます。絵も内容もおそまつくんですが、ムードとして私のものを代表しているものです、これは。」とありますが、これ、憶えてることとかありますか?
岡田:うーん、憶えてませんね。なんかキャラクター的には、「COM」に載った作品と似てるかな。「COM」に載ってNTTの作品集にも載りましたけど、「フライハイトと白い骨」ていう、あれに似てると思いません?
赤田:初期の少女マンガの感じと、レイモン・ペイネとかのフランスっぽい感じと、なんか混合してるって感じですけど。
岡田:でも心配してたほど下手くそじゃないですね(笑)。もっと稚拙なものだと思ってた……。
赤田:その次に「耳なしホッホ」の話を載っけたいと思って。
岡田:そのタイトルは覚えてますね。
赤田:これは多分ヴァン・ゴッホのことみたいですね。
岡田:うーん多分。
赤田:これもやはり、最後のページの裏に、こう言いてあります。「これはヴィンセント・ヴァン・ゴッホのことをかこうとしたものですが、思いつきを「発作的」にかいたので、こんなものになりました。フリッカという婦人は仮想です」と。
岡田:なーんにも憶えてないですね。それ同人誌に載ってたやつですか?
赤田:そうですね。「けむり」ですね。「けむり」八号と画稿に書いてあります。一九六六年、はじめ季刊だった「墨汁一滴」って言ってたのが、あとで名前変えて隔月刊の「けむり」になったみたいですね。
岡田:「墨汁一滴」っていうのは●●(判読不明)だったからでしょ。
赤田:あの石森章太郎の作っていた同人志にもありますよね。
岡田:そうそう。
赤田:これは、「かえん」と読ませるんですか? 三本描いてらっしゃるんですね。
岡田:同じタイトルで?
赤田:ええ。最後のだけは、正確に言うとローマ字で「kaen」と描いてましたけど。これは、けっこう力入っていてかなり複雑な話ですね。精神病院の話ですけど、これも記憶に無いですか?
岡田:無いです。
赤田:多分これは、生まれて初めて描いた長めの連作なんじゃないですか? 石森章太郎の「ジュン」とか、ああいう実験的なことを描いてると思うんですが。
岡田:うん。
赤田:最後にこの「kaen」描いてらっしゃいますね。レド=アールってキャラクター、もうここで登場してくるんですね。
岡田:それは、この間、青島君から聞いたんですけど、私ビックリしたんですよ(笑)。レド=アールって「ガラス玉」で初めて出てきたと思い込んでたから、その前に描いてたとは全然思いませんでした。「レド=アールって名前どこから出てきたの」って聞かれたんですけど、答えられなくて……。わからないんです。
赤田:何かヒントとかありましたか?
岡田:もし、ヒントがあったとすれば、サルトルだと思うんですけど。当時サルトルに凝ってましたから(笑)。
赤田:「フライハイト」って言葉も出てきましたね。
岡田:「フライハイト」っていうのは、北杜夫からですね。
赤田:ドイツ語で「自由」?
岡田:うん。
赤田:北杜夫さんの、どんな作品なんですか?
岡田:なんだったかなぁ? 短編です。タイトル忘れましたけど、精神病院に入院してる分裂症の患者が「フライハイト」としか言わないという、お話でしたけど、 (編註・未見だが、「夜と霧の隅で」という短編らしい)
赤田:「kaen」は、デビュー以前の、評論家の物議をかもしそうな問題作という感じがしましたね。
岡田:問題作ですか(笑)。
赤田:これは、「岡田史子の匣」というのですよね?
岡田:ええ。
赤田:エッセイみたいな感じで、親近雑記作品を描いてらして面白いので、入れたいなって思って、すごくハードな作品が続いたんで息抜きみたいなものをという思いがあって(笑)。子供の頃の目標とか夢の話とか、線画で描いてますね。この詩はご自分で作った歌なんですか?
岡田:自分だと思いますけどね。
赤田:この「車中にて」も自分で作ってる詩なんですよね。
岡田:ええ。
赤田:高校時代、文芸同好会にいたころの詩ですか?
岡田:ええ、文芸部にはずっと在籍してましたから。
赤田:猫の画文がすごく多いんですけど。子供の頃から飼ってらっしゃるんですか?
岡田:子供の頃から切らしたことは無かったですね。
赤田:これも猫ですね。画稿の裏に、猫について、こんなことが書いてありますね「猫──ボードレールにうたわれた近代のデカダンスの象徴、孤高をこのみ、キゾク的。人の言うことを聞かない。独立精神あり」と。これは青島さんのスケッチブックにあったんですけど、なんか、「ネバーエンディングストーリー」みたいな(笑)。
岡田:うふふふふふふ…(笑)。
赤田:すごくいいなと思ったんですけど、この死亡広告も、猫のですね。
岡田:あの、こういう顔をした猫を飼ってたんです。
赤田:そうですか。それは本当に亡くなったんですか?
岡田:うん。私がちょうど20歳の時に。ちょうど10歳の時にもらってきて、ちょうど20歳の時に亡くなったという……。
赤田:けっこう楽しそうに描いてますよね(笑)。
岡田:ふふ(笑)。
赤田:これは、「DO YOUNG」という若者雑誌があって、ここに岡田さんのインタヴューが載ってらして、このミニスカート姿は、昔の写真みたいですけど。
岡田:うわー、全然記憶ない。なんだろう?
赤田:漫画家の卵の取材ってことで。
岡田:これ私の絵じゃないですよね。
赤田:いえ、岡田史子と書いてありますから。
岡田:これ、私が描いたんですか?
赤田:ええ(笑)。
岡田:ふふふふ(笑)。
赤田:だと思いますよ。覚えてないですか?
岡田:ええ。
赤田:インタヴューに続いてイラスト連作が載ってるんですよ。「海の底の日よう日」。レイモン・ペイネみたいですね。このころ 「COM」以外ではマンガ描くこと珍しかったんじゃないですか。一九七〇年ですね。
岡田:覚えてるはずだけど、全然覚えてないなあ……。
赤田:これはビートルズの歌ですね。
岡田:はい。
赤田:「アンド・アイ・ラブ・ハー」の歌詞。これも歌ものですね。サイモン&ガーファンクル。これも青島さんのスケッチブックですが。これにもレド=アールが出てきますね。そして、これはちょっと古典的な着物の女性を描いたカットですよね。
岡田:かわいい。
赤田:このカットに続けて「みず色の人形」のを載せようと。これも青島さんからお借りしたんですけど。
岡田:これ全部ありました?
赤田:ありました。これ、岡田史子として第二作目だって聞いたんですけど?
岡田:「太陽と骸骨のような少年」の前か後かは、はっきりしないんですけど。
赤田:それまでほとんどの作品は、高田冨美子、名義で描かれているんですよね。「みず色の人形」は、思い出とかありますか? 今までとは違うタッチで、これまでを知る人から見たらビックリするような作品ですよね。
岡田:「ハムレット」とか描きたかったんですよ。当時はソ連製の「ハムレット」の映画が公開されまして、それを観てすごいシビレちゃって、「ハムレット」描きたかったんですよね。だけど、出演していたハムレット役のイノケンティ・スモクトゥノブスキーっていう俳優の顔をマンガにするのが難しくて、どうしても描けなかったんですよね。
赤田:顔が難しかったんですか?
岡田:あまりに立派な顔で、マンガにならなかったんですね。
赤田:ディフォルメが出来ないってことですか*
岡田:うん。ディフォルメがうまくいかなかったんですよ! 一生懸命やったんですけどね。ものすごく整っていて、ほりが深くて……。後にほりの深い顔も描いてますけど、当時は描けなかったんですよ。それで「ハムレット」を描くのをあきらめて、それを描いたんですよ。それもハムレットを下敷きにした、時代劇です。
赤田:なんで日本の時代を劇翻案したんでしょうか?
岡田:やっばり「ハムレット」は、外国ものがだめなら日本もので、日本ものなら昔の話ですから時代劇ってことになるんじゃないんですかね。現代もので「ハムレット」は描けないでしょう。
赤田:この男の子は、手塚治虫の「新撰組」とか、面影がありますよね。これは16の時に描いた作品で、里中満智子が13でデビューした記事を何かで知り、発奮したという話ですよね?
岡田:はい。
赤田:はじめ、これは水野英子さんの元に送ったんですか?
岡田:そうです。それで卒業して上京してから、村岡先生と一緒に「どうでしたか?」と聞きに行ったんです。でも、「あまりにも私とは世界が違いすぎて、何も言えない」と言われて返されましたよ。それっきり……。好きだったんですよ「白いトロイカ」かなんか夢中になって読んで、全部読みましたからね。
赤田:かなり内面みたいなことが少女マンガの絵柄で描かれていて、商業誌には絶対載らないという気がしましたね。複雑すぎるというか……。思い出深い作品ではあるんですか?
岡田:思い出はありますね。
赤田:原稿を青島さんに預けられたというか、上野駅で渡されたと言ってましたけど。
岡田:ああ、そうですか。それはもう全然憶えてなかったんですけどね。無くなったと思ってましたから。だから、青島君から「自分が持ってる」って聞いたときは嬉しかったです
赤田:大事な作品なんですね。
岡田:ええ。思い出ありますからね。
赤田:結局「みず色の人形」って、水死体の事ですよね。
岡田:はい。
赤田:すごく残酷な話で。
岡田:「ハムレット」だから残酷ですよ。
赤田:最後に、この「静和荘の話」と「輝うつばめ」なんですけど、発表月の順番と掲載順番が逆なんですけど、まあその方が据わりがいいかなと思うんで、こうしようかなと。これも、自殺しちゃうお話ですよね。
岡田:そうなんです。
赤田:アパートのモデルとか、あったんですか?
岡田:あります。静内に「静和荘」ってあるんですよ。そのものズバリの元・病院で、今はアパートっていう建物があって、とにかくもう、入ると妙な匂いがしてね、汚くて、お化けでも出そうな雰囲気でした。
赤田:空き家だったんですか?
岡田:いえ人は住んでました。
赤田:知りあいがいたりして、ということで?
岡田:いえ。知りあいもいませんでした。「アサヒグラフ」の取材の時に写真のバックを探してカメラマンの人と町中歩き回ったんですよ。その時にカメラマンの人が汚いバックが好きな人で(笑)、ここのアパートいいって言って入って、廊下で何枚も写真撮ったんですけどね。その時に私も、このアパートいいなって思ったんですよ。
赤田:その時初めて入ったんですか?
岡田:ええ。それで100枚くらい描いたかな。静和荘の話は。
赤田:100枚! これ以外にですか?
岡田:ええこれ以外に、100枚くらい静和荘の話を描いたんですけど、どうしてもまとまらなくて、で、こんな形でまとめて逃げちゃったんですね。
赤田:じゃ、これは無理矢理まとめたという感じですか?
岡田:そんな感じですね。もっともっと苦しくて、猫は自殺なんかしないんですよ。そんな話だったんですけど。
赤田:最後のフランス語は、なにかの引用ですか。なんて読むんですか?
岡田:忘れちゃいましたね。それは削って載せてもかまいません。意味ないと思いますから…。
赤田:載せた方が面白いんじゃないですか。「輝うつばめ」は何か思い出あります?
岡田:それはですね、マーチン・シーンっていうアメリカの映画俳優ご存知です?
赤田:あの「地獄の黙示録」の、ウィラード大尉ですか?
岡田:そう、「地獄の黙示録」観て、マーチン・シーンの大フアンになちゃったんですよ。それでね、調べたらマーチン・シーンっていうのは「輝うつばめ」っていう意味だったんですね。
赤田:いい名前ですね。
岡田:ええ。それで、なんとか「輝うつばめ」っていう題名でマンガ描きたいなって思って。
赤田:まずタイトルありきでイメージが出来ていったわけですね。マーチン・シーンって、こんな顔してましたっけ?
岡田:うん。そんなに特徴のある顔じゃないですよね。 最近特におじさんの顔のイメージが強くて、若い頃の顔忘れちゃったから。
赤田:最近も映画に出演してますか?
岡田:最近もレンタルビデオなんかで見つければ、観るようにはしてるんですけど、おじさんになったらつまらない人ですよ。
赤田:これ「夏」のカットだと思うんですけど。マンガとは少し違うカットみたいですね。構図は同じだと思うんですけどね。
岡田:ええ。
赤田:村上知彦さんの解説を九ページに渡って載せて、それから村岡栄一さんの原稿が三ページ入ります。後になにか後書きみたいな感じで、短い覚え書きみたいなのも書いていただけないでしょうか?
岡田:いいですよ。
赤田:そういう流れにしようかなっと思ってます。特に何か、今の流れで問題はありますか?
岡田:いや。とにかく下手じゃなかったんで安心しました。とっても安心しました(笑)。
赤田:もっと稚拙というか……?
岡田:もっとひどいものばっかりだろうなと思っていたんで。すごく、ほっとしました。
赤田:じゃあ、そういう感じで構成させてもらいますので、よろしくお願いします。
岡田:はい。
*
赤田:もう少し、最近の近況とか、どんなふうに過ごしてるとか、「奇人クラブ」のこととか、お聞きしたいなと思うんですけど。
岡田:「奇人クラブ」のことは、ほとんど覚えてないですね。毎月、池袋の「漠」っていう喫茶店に集まって、おしゃべりしてたってことしか憶えてないですね。
赤田:全員中学生だったんですか?
岡田:当時はそうだったみたいですね。
赤田:村岡さんが初代の会長で、岡田さんが五代目の会長?
岡田:私も会長になったことありますね。一年くらいやったんでしょうかね。あんまりよく覚えてませんけども。東考社から本出してもらいましたよね。あの編集をした覚えはあります。
赤田:ああ、「アイ」ですね。「アイ」の二号を編集されてますね。 あと「ぜんしん」っていう手書きの通信紙があって、それも作ってらしたようですね。
岡田:そうですか。
赤田:最近のこととかもお聞きしたいんですけど、去年ですが、保険の外交の仕事を辞めて、今は勤めてはいないんですか。
岡田:ええ。
赤田:小説書いているんですか。
岡田:ええ。小説書いてます。
赤田:書き貯めていらっしゃるんですか。
岡田:書き貯めてませんね、どんどん応募してます。
赤田:どうですか? 反応は。
岡田:全然だめですよ。
赤田:文芸誌に応募してるんですか?
岡田:ええ。
赤田:「文学界」みたいな?
岡田:「文学界」は純文字なんで、避けてますけどね。私、純文学はやる気ないんで。
赤田:エンタテイメントみたいのですか?
岡田:ええ。
赤田:へえー。じゃあ、もう何本かお話は書いてるんですね。例えば、ミステリとかそういうスタイルですか?
岡田:ミステリはだめです。
赤田:じゃ、どんなお話くんですか?
岡田:恋愛ものですよ。恋愛もので、若い人も出てきますけど、やっぱり自分が中年だから、中年が多いですね。中年の恋愛。
赤田:「失楽園」とか読みました?
岡田:不倫も好きじゃないんですよね。私はね。
赤田:純愛ですか? 純愛でエンタテイメントっていうと、なかなか難しいかもしれないですね。
岡田:難しいですよ。それでハッピーエンドにしたいんですよね。そうすると軽ーくなっちゃうでしょ。なかなか難しいです。
赤田:あまりミステリには興味ないですか?
岡田:ミステリは、読んだり、テレビドラマとか見たりするのは好きなんですけど、自分ではやりたくないですね。第一、頭悪いから、トリックとか考えられないし。
赤田:昼間はパソコンに向かって文字を書いたりとか。
岡田:うん。キーボード、カタカタやって……。夜はテレビ見て。
赤田:散歩も日課なんですよね。
岡田:そう、夕方散歩して。
赤田:北海道は、日差し強いですね。なんか、髪形のせいでしょうか、以前よりもショートカットになさっていて。一年半前にお会いした時よりも、痩せられたような感じがしますけど。
岡田:ああ、そうですか? 髪形のせいもあるかもしれないけど、会社辞めてから一日二食で朝と夜だけにしたんですよ。あまり動かないのに食べてたら太るからと思って。でも、黒いから引き締まって見えるだけかもしれないし。
赤田:他の人のマンガはやっぱり、読まないですか?
岡田:ええ。
赤田:映画は観ますか?
岡田:ええ、映画は観ます。
赤田:最近気に入った作品とかありました?
岡田:「ハムナプトラ」とか面白かったです。ちょっと昔のエジプトが舞台で、ミイラが生き返って暴れるっていう話なんですけど。それで、財宝が隠されていてどうのこうのって。冒険活劇、アクションドラマって感じ(笑)。
赤田:ハリウッドの映画?
岡田:ハリウッドの有名な俳優は一人も出てないんですけどもね。なかなか楽しかったですよ。
赤田:どういう基準で選んでるのですか?
岡田:「ハムナプトラ」は映画館で観ました。
赤田:最近、マンガを描く気力というのは……。
岡田:今はないですね。アイデアも全然ないし、文字もまともに書けない。
赤田:「週刊新潮」で答えてらして驚いたんですが、手が震えて動かないとか。
岡田:それもありますね。もう細かい仕事出来ないですよ。マンガって根気仕事でしょ。年で根気が無くなってきちゃってるから。
赤田:お会いしたときに「マンガって、テーマに命懸けないと、ちゃんとしたものにならない」っておしゃったことが、印象的で。身を削って描かなくてはならないって感じですよね。小説の方が、もうちょっと自分を客観的に見て書けるんですか。
岡田:小説を書く時は自分を見ないですね。自分よりも人を見て、自分は恋愛してないですから。
(一九九九年七月三十一日 札幌グランドホテル)
「まんだらけZENBU No.4」278-291ページ
【岡田史子:まんだらけZENBU No.4】
【岡田史子:インタビュー第一部】テキスト抽出あり
【岡田史子:インタビュー第二部】テキスト抽出あり
【岡田史子について:青島広志】テキスト抽出あり
【岡田史子作品リスト:青島広志】
【岡田史子について:山口芳則】テキスト抽出あり
最新コメント