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【まんがナビ対談:荒俣宏・竹宮惠子】その4
eBookJapan「荒俣宏の電子まんがナビゲーター」

荒俣宏の電子まんがナビゲーター:魚拓
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資料提供
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第2回:竹宮惠子編
その4 竹宮惠子の世界を支える「理想」巻
2010年09月24日

註:対談部分を中心に採録
全文は「荒俣宏の電子まんがナビゲーター」(各見出し下のURL)にてご確認ください


■伝記的な家族の話
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(荒俣宏の解説・略)

『紅にほふ』は、満州で芸妓(げいぎ)をしていた竹宮さんのおばあさんが、置屋(※1)の女将(おかみ)さんの遺言でまだ幼い娘二人を預かるところから始まる。このおばあさんはやがて自分の本当の子、すなわち竹宮さんのおかあさんを産む。したがって、この三姉妹、血のつながりはないのだが、三人三様の個性を発揮して激動の時代を生き抜いていく。

(荒俣宏の解説・略)

※1 芸妓の住み込み事務所のようなもの。芸妓は置屋に所属し、置屋から料亭、茶屋や揚屋に派遣される。

■短篇にもあふれる、「観音力(かんのんりき)」の女性像
https://web.archive.org/web/20141010183659/http://...

(荒俣宏の解説・略)

前書きが長くなりすぎた。いよいよ、最後のインタビューをご紹介して、竹宮惠子というまんが作家のイントロダクションを締めくくることにしよう。

■『紅にほふ』が描かれた頃
https://web.archive.org/web/20141006201434/http://...

荒俣●あの、僕はですね、やっぱり、年のせいですかね? 50歳近くになって読んでジンと来た作品が、あるんです。あれは、ええっと、満州へ行っちゃう…。

竹宮●はい。『紅にほふ』ですよね。

荒俣●そうです、それ。大好きなんです。あれはもう1990年代に入ってからの作品ですよね。

竹宮●そうですね。バブルが弾けたちょっと後くらいですかね?

荒俣●あの親子関係が、さっきの『地球へ…』と同じように、女の子たちが浮かれ騒いだあとの「失われた十年」に出たときは、ほんとうに新鮮で。考えてみると、竹宮さんのテーマって、その時代の断面をうまく切っているところもあるんですよね。

竹宮●どうでしょう?そうならいいのですが…。

荒俣●あれ、すごくね、興味深かったんです。その頃まで、芸妓なんかまったく関心がなかったんですが、あれを読んで、芸妓の世界に大きな関心を抱きました。

竹宮●私にそれが描けたのは、当然ながら母と、母とは血のつながらない芸妓関係の姉妹がいたからなんです。母は祖母が女将を辞めて結婚してから出来た子供なので、全然、芸者経験はないんですけど、あの時代は女の子を養女にして、置屋をやるわけですから、お姐さんたちは養子縁組をしているんですね。それで母と姉妹になっちゃうわけなんです。

荒俣●そうですか。芸妓社会の基盤は、やっぱり家族なんですね。血のつながりを越えた家族が、あれで描けた。竹宮さんは、それを描かなくてはいけない運命を背負わされていたんだ。ご家族がそうした歴史を持っていましたから…。

竹宮●まあ、そんな感じでしょうか…。

荒俣●あの関係って、日本が失くした、一番大きな「根っこの力」ですよ。誰の子でも平気で家族に迎え、養っていたんですよね。昔は。

竹宮●昔は、ほんとにそういうダイナミックな所があったようですね。

荒俣●ダイナミック! そうです、僕は、やっぱりおかあさんが芸妓だった泉鏡花(いずみ・きょうか:1873〜1939 ※2)の言い方で、「観音力」という表現があるんですが、そういう無私な女の力を感じるんです。

竹宮●あの、戦時中なんかが特にそうで、ここで子どもを助けておいたら、もしかすると私の元から離れて行った、あの息子が助けてもらえるかもしれないって考え方を、みんながしていましたよね。

荒俣●残留孤児問題なんかも、やっぱりそれに関係があって、(日本に連れて帰るより、ここに)残して誰かの養子にした方が、もしかしたら、この子は生き延びるかもしれないって、泣く泣く渡しちゃったりした親の話なんていうのは、ずっとあの後から出てきますよね。

竹宮●はい。そうなんですよね。

荒俣●あの話、「今、芸者の世界なんかやりませんか」って、編集部あたりが押しつけてきそうな感じですけど。

竹宮●いやいや。私はもう、メジャーなというか、表舞台でなんかやるんじゃなくて、私が描き残していることだけを、個人的に描いておきたいと思ったので。ちょっと中国から離れた所でだったら描けるかな、と思って描いたんですよ。

荒俣●そうですか、自発的なものだったんですね。

竹宮●それで、やっぱり調べ物をたくさんしないといけないし、親の、自分のルーツになるような話なので、できるだけ、聞き描きのおもしろさみたいなのを伝えたいと思って、描いたものなのです。

荒俣●あぁ、なるほどね。三姉妹が愉快なおばあさんとして出てきて、竹宮さんらしき若い女性が熱心に昔の話を聞き取る形式になっていますものね。

竹宮●やっぱり聞き描きだから、リアルな部分っていうのがあって…。 そう、母はその時、自分史を書こうとして、一所懸命にメモをしていたんですよ。

荒俣●そうだったんですか。

竹宮●で、それを読ませてもらったりして…。

荒俣●じゃぁ、すでに思い出を溜めていらしたわけですね、おかあさんが。

竹宮●そうですね。で、(母が)旧満州で育っているので、その場所へ一緒に行きました。鞍山(あんざん:中国の鉄の都)だったんですけども、鞍山の鉄工所の関係で働いていて、そこで終戦になったんですね。鞍山へ行きたいって言いだしたちょうどその頃、もう行けなくなるから、今のうちに満州へ、行きたい人、今なら行けますよということで、ツアーがたくさんできていたんですよ。

荒俣●90年代にですか?

竹宮●そうですね。その頃には、まだ(満州時代の)残っている建物とかあるから、今のうちに行っとかないとこれから開発されちゃうから、今、行きましょうってことで…。

荒俣●イメージが残っているんだ。なるほど。

竹宮 ●それで、母と一緒に行って、いろんなところの写真を撮って来たり…。鞍山の鉄工所はそのままで、まだ鉄粉が舞っているような状態のまま、残っているんです(笑)。公害がありますというのを、通訳の人が言っていましたけれど。

※2 明治から昭和にかけて活躍した小説家。戯曲や俳句も手がけた。代表作に『高野聖』『婦系図』『歌行燈』など多数。

■芸者の文化、通人の反骨
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荒俣●あれを読んでから、僕も、芸子・芸妓の世界にちょっと触れました。ちょうど、運よく仕事で、現役芸者の方々と知り合いました。人形町というのがありますよね、東京に。

竹宮●はい。

荒俣●あそこは元吉原といわれ、遊郭(ゆうかく)があったのですが、今の吉原に移ってから、あの芸者の置屋がたくさん出来て、芳町(よしちょう)芸者の街になりました。その最大のヒロインが、あの川上貞奴(かわかみ・さだやっこ:1871〜1946 ※3)です。貞奴がいた置屋さんは濱田(はまだ)家といい、その名を継いだ料亭がまだ健在なんですよ。検番(※4)がまだ残っていて、踊りの稽古も見られます。

竹宮●へぇ。

荒俣●で、その当時の旦那方が、どうやって芸子さんと遊んだのか見たいって思っていたら、ちょうどうまい具合に、人形町で有名な、大きな氷屋のご主人が見せてくれたんです。力道山(りきどうざん:1924〜1963 ※5)を投げ飛ばしたのが自慢っていう力持ちの、ほんとに洒落たお方でした。男伊達に惚れますよ、会うと。

竹宮●ほぉ。会ってみたいですねぇ。

荒俣●ご祝儀を半紙かなんかに、こう包んで、「ちょっといらっしゃい、あんた芸がいいね、後ろ向いてご覧」って、芸者さんたちを後ろ向かせて、その襟首に、さりげなくぴょんと(ご祝儀を)入れて、「はい」って肩をポンと叩いて、「ご苦労さん」とか言いながらね、送り出すんですよ。
で、あまりにも見事なご祝儀の渡し方なんで、「ほんとに粋ですね」って感嘆したら、「そりゃそうだよ。何十年も月謝払わないと、こうはいかねぇんだ」とか言われたけども…。

竹宮●自分がやってみたかったりして…(笑)

荒俣●あぁいう世界を見ていて、まあ、確かに、遊郭のような部分もあるんだろうけれど、やっぱり芸妓と旦那の世界って、一つの文化があって、軍部が台頭して殺伐(さつばつ)とした雰囲気の中でも、あぁいう遊びをやること自身、相当な反骨精神がないと出来なかったんじゃないかと思うんです。芸者さんも、気骨がないとね

竹宮●えぇ、はい。そうですね。そういう街の旦那衆が芸者の「いい人」になるのですものね。まぁ、段々、軍部がね、お客さんになっていっちゃうわけですが…。

荒俣●そうですよ!『紅にほふ』は、まさしく、お客が軍人になるころか。やっぱり、すごい作品ですね。そういう時代の手触りがちゃんと仕組んであるのですね。

竹宮●やだ、いまお分かりになったんですか?(笑)

荒俣●僕も、まだまだ未熟でした(笑)。やっぱり、日本がもったのは、女の力だって思いましたよ。

竹宮●はい。いや、もう、引き揚げなんかは、ほんとにそうだと思います。

荒俣●じゃぁ、今のうちに描いておこうっていうことだったんですね。

竹宮●そうなんです。今、聞けるうちに。あの三人ともね、生きている状態で、話を聞ければいいなぁって思って。そのために、呼んだんですよ。来られるなら来て、話が聞きたいから、集まってくださいって。それで、おば二人を呼んだんですけど、来てもらって、初めて分かったのですが…。

荒俣●はい。

竹宮●戦後になって、そのときに初めて再会しているんですよ!

荒俣●あぁ、そうなんですか。

竹宮●バランバランにみんな引き揚げて来て…。

荒俣●なんか30年だかぶりにとかいうような…。

竹宮●そういうことでもなかったら、会えなかったんです。手紙等のやりとりはしているんですけれど…。

荒俣●なるほどね。それだけに、あの、実にリアリティのある話になっているんだろうなぁ。

竹宮●でも、ストーリー上は現代との行き来が難しくて、苦労しました。現代を舞台にしたことで、話の展開がよく分からないって人もいたんですけれど…。でも、そういう形にするのが、一番、私たちの世代との関連が描けるから、いいんじゃないかなと思って、描きました。

荒俣●また、あのちょっと手が悪くて、眼鏡かけた、梅子さんが、縁づいていくところ。「ありがとうございます。私のような女に…」なんて返事するけれど、今の女の子なら、嘘でしょって言いそうですよね。

竹宮●そうなんでしょうね。

荒俣●恥ずかしながら、泣きましたね。あの場面。

竹宮●まさか!(笑)。ただ、すごく辛抱強い人が多かったと思いますね。

荒俣 ●あの力は、確実に竹宮先生に遺伝している。

竹宮●ははは(笑)そんな…。

荒俣●あぁいう作品こそが、次の世代への贈り物になると思います。大きな財産になると思うな。

竹宮●そうですね。いろんな方がね、ドラマ化したらと言ってくださったんですけれど、やっぱり戦時中のものは、まだ生きておられる人がいるので、もうちょっと先にならないと無理じゃないかという意見も多かったです。

荒俣●そうですか。とにかく、今、お話をうかがっていると、いろんな意味で、他人が通りたがらない道を、竹宮さんが、もう、率先して押し通ったなって感じがするんですね。

竹宮●えぇ、いきなり開こうとするのが、私だなぁ、と自分でもいつも思っているんです。いや、大学の仕事(教授)を引き受けたのも、やはりそうなんですね。

※3 伊藤博文や西園寺公望に贔屓された芸妓で、後にアメリカに渡り、日本初の女優デビューを果たし、欧米で絶大な人気を博した。

※4 料亭や茶屋にあがる芸者の取次ぎや、玉代の計算を行った場所。

※5 プロレスラー。戦後、日本に大プロレスブームを起こした“日本プロレス界の父”。

■短篇まんがと電子書籍の効用
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荒俣●時間もなくなりましたが、もうワンテーマだけ聞かせてください。竹宮さんの作品に占める、短編作品の位置について。

竹宮●あっ、はいはい。

荒俣●eBookJapanにも、これからどんどんの短編が収められていくようですけど。

竹宮●短編は私にとっては習作なんですよ。作品で勉強する、というのもどうかと思いますけど短編にまとめるっていうことで、ストーリーを演出するおもしろさや、脚本をしっかり作ることのおもしろさみたいなものを、段々に学んでいくわけです。最初に、私、自分が結構週刊誌向きだって言いましたけれど、話を継ぎながら転がしていくのが好きな方なんで、読み切りで勝負するっていうのは苦手なタイプだと思います。

荒俣●そうでしたか。

竹宮●はい。なので、描いても描いても、あの、なんていうか身にならない感じで(笑)。

荒俣●ま、ご本人の印象はそうなのでしょうね(笑)。

竹宮●最初の頃は短編をいくら描いても、なんか、話題になってこない、じれったさみたいのがありました。しかも、一つの話をまとめるのに、ものすごく時間がかかるんです。

荒俣●へぇ、そうですか、とても相槌を打ちにくいんですが(笑)。

竹宮●ははは(笑)。これが連載なんかだったら、読者との反応を、こう確かめながら、転がして行くってのいうのもできるんですけれど…。

荒俣●すこしずつ作品を成長させていける、子どもみたいな要素がありますよね。

竹宮●はいはい。それが、あるんですけれど。

荒俣●短編って、いきなり大人にして出さなきゃいけないんですよね。

竹宮●えぇ。短編は一回で勝負しなきゃいけないんで。だから、それがすごく難しくて。時間をいっぱいかけたのに、結果が悪いとか…。

荒俣●なるほど(笑)。

竹宮●時間をかけすぎて、いい話になったのに、(絵が)荒っぽかったとかですね。そういう失敗に終わった結果が、いっぱいあります。だから、ほんとうに10年くらいかかって、話のまとめ方を自分で把握したみたいな感じなんですね。

荒俣●長い時間がかかったわけですか。

竹宮●そうだったんですよ。それは実に無駄骨なんで、時間がもったい無いので「最初から短編を作るコツを教えるから、ちゃんと勉強してね」って、今の学生たちには言っているんです。

荒俣●10年間の苦労を短縮させようという…。

竹宮●10年間が無駄だったとは言いませんけれどね。長年苦労して、物語をまとめるコツを掴めたんだから、無駄とは言いませんけれど、でも、時間はかかり過ぎたなという感じはあって。だから、いろんな要素が、各短編にはちょっとずつ出ていて。まぁ、それを全部、一緒にすると、竹宮惠子のイメージみたいなものになるかな?っていう感じはあるんですが…。

荒俣●ははぁ。なるほどね。

竹宮●一つ一つは、全然完成してなくて、ほんとにダメだったんですよね。でも、それが『ジルベスターの星から』……いや、違いますね、『ミスターの小鳥』っていう作品で、初めて、与えられたページ数の中で完璧に話が語れるっていう状態にようやく至って、なるほど、こうすればいいんだっていうのが、分かったんです。

荒俣●あぁ、そうですか。

竹宮●はい。もう最後の余韻に至るまで、しっかり計算して作ったっていうのが、その作品でした。それまでは、ここではうまくいったけど、こっちではダメみたいな、バランスの悪い作品がたくさんあって、非常に恥ずかしい部分でもあるんですけれどね。

荒俣●作り方は分かれば、なんということはなかった、というわけですか。

竹宮●そうとも言えますね。ですから、逆に、私の作品を研究するんだったら、短編作品にも当たって「いいところ、ダメなところ」をチョイスして読んでね、って、学生たちには言っています。大学院で、私の作品を研究したいという人もいるので…。

荒俣●はいはい。

竹宮●研究していると、「どの作品を読めばいいんでしょう? あまりにもたくさんあるので、どこを読めば、あなたらしいのか? そこがわからないから、教えてください」って、来るんですよ。それで、私を研究するんだったら、この辺を読んでおくといいかなぁみたいに案内しているんですけれど…。

荒俣●なるほど、短編は竹宮惠子の全体像を知るのに必要不可欠な部分なんですね。

竹宮●ただ、そうやって選んでもですね、本がないと読めないので、電子書籍にしていただけると非常にいいかな、と思います。

荒俣●そうですよね。たとえば、角川版の作品集を、こうずっと眺めてみてもそうなんですが、やっぱり、長編はとても語りやすいんですけれど、短編まで目を通すには本を揃えるのが大変になりますものね。

竹宮●えぇ。

荒俣●竹宮まんがの短編と一口に言っても、多彩なテーマの中からどれを取っていいんだか、非常に悩ましいところもありますし…。

竹宮●『ミスターの小鳥』以降は、割と短編を描くときにも、コントロールが出来ているかなと思うんですけれど…。

荒俣●あっ、その作品が分水嶺(ぶんすいれい)。

竹宮●そうですね、はい。それからは、何ページのものが、どのような形で来ようとも、怖くない状態になりました。それより前の作品で言えば、『ジルベスターの星から』などは、偶然にうまくいった作品なんですよ。

荒俣●偶然にうまくいった。そっちはまだ、偶然の段階だったんですか。

■今の学生に伝えたいこと
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竹宮●短編の極意って、ページ数にあった話を考えなきゃいけないんだなぁって、私もようやく分かりましたね。(教員たちは)みんな学生たちにそのことを最初に教えます。たとえば、放っておけば長くなりがちなセリフをどう短くするのかが大事なんです。同時に、自分が表現したいことに、文を添えるのがいいのか、絵を添えるのがいいのか、それも考えなきゃいけない。

荒俣●たぶん今の人っていい加減で、その辺あんまり考えていないから…。

竹宮●はい。そうです。それも何回かやりながら、フィードバックしてあげながらですね、作り上げていかないと、学生にはわからないですよ。

荒俣●えぇ。はい。

竹宮●で、それを一通りやったたけじゃ身につかないので、何回やれるか、もう(教員)みんなで、一所懸命考えて、習作のカリキュラムを作っていますね。

荒俣●まんがを学ぶ価値も、そこに出てくる。でも、あのパッションというか、熱意はやっぱり学生の内側から来ないと、出てきませんよね。やたら器用な学生もいて、「こんなのやってみたら、どうだ。君には向いてるから」ってアドバイスすると、「はい」って気軽に答えて、翌日には言われたとおりの作品を素直に持って来る学生も、いるんですけどね。もう、素直と言うか、なんていうか。

竹宮●あはは(笑)。そうかと思うと、入試の為だけに作り上げた形から入ってきて、あとが続かないとかですね、いろんなタイプがいますよね。

荒俣●えぇ、あの持続性というか、粘りという点では、中国・韓国の学生がとても強敵になるのは、その辺ですね。

竹宮●いやぁ、彼らはほんとに熱意がすごい。しかも絵はバッチリ上手い人が入ってくる。どんなタイプの絵も描き分けるんですよ。毎回毎回、違う色を見せてくれる。そういうのを見るとね〜。

荒俣●まさに、今の中国人の熱さって、3、40年前の日本の若者に似ていますよね。

竹宮●はい、ですから、今、中国から来ている留学生は、平気で全体主義の批判を描いたりもするんですよ。

荒俣●そうですね。我々でも懐かしくなるくらいの正論を吐きますしね。

竹宮●あはは(笑)。お国にとっては困る発言だからと言っても、そういうことを平気でやっちゃえる熱気がありますからね。ものすごいパッションですよ。

荒俣●そうですねぇ。なかなか最近の日本人には、ないんですよね。

竹宮●いや、最初が肝心。日本の若者だって、1年生の時にそういうことを、しっかり吹き込んでおけば、なんとかなってくれるって信じています。

荒俣●なんだか、僕も竹宮先生の生徒になって、檄(げき)を飛ばされているような気分になりますよ。そこで最後におうかがいしたいのですが、竹宮さんの短編を拝見していて、いろんな時代設定だとか、いろんな話の内容にチャレンジされているので、たとえば、気に入った短編作品を長編として描きなおすような形になったことは、ありませんか。

竹宮●そうですね。どうでしょうか。短編を描いた後に長編に発展させようと思ったというよりも、私の場合はまず最初に、『風と木の詩』のような構想があったじゃないですか。

荒俣●はい。えぇ。

竹宮●私の描きたいものが、かなり初期から、長編としてありましたので、短編はそれを完成させるための練習という位置付けに自然となったような気がします。

荒俣●それは壮大な話ですね。

竹宮●すべての短編作品が、『風と木の詩』を表現するための実験装置で、えぇ、ここちょっとやってみようか、あっちもちょっとやってみようか、みたいな形で。

荒俣●『地球へ…』のときも同じでしたね。

竹宮●はい。すご〜く暗い話を描いてみたり、抽象的な話を描いてみたり、みたいなことを、短編という形式でいろいろ試していましたね。

荒俣●そこのところは、なんて言うんだろう、一石二鳥みたいな戦略をめぐらせて、勝つ方法をちゃんと掴み取られた?

竹宮●そうですね。結構、長い目で見ていましたね。一生、描いていくと決めていましたので。

荒俣●いや、ほんとうにありがとうございました。おかげで、竹宮さんの作品の全体像を見渡す方法が、とてもよく分かりました。

竹宮●いえいえ、とんでもないです。

荒俣●でもこれから、eBook Japanで竹宮作品が続々と刊行になりますので、よろしくお願いいたします。

竹宮●はい。こちらこそよろしくお願いいたします。ありがとうございました!

【 終わり 】

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