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【インタビュー:第1部「人間・竹宮恵子」2】増山法恵
ぱふ1982年8-9号「特集竹宮恵子part2」(32歳)

ぱふ1982年8-9号「特集竹宮恵子part2」
発行日:1982年08月01日
出版社:雑草社


資料提供
https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/gcomic/163149...


「第1部「人間・竹宮恵子」2増山法恵
(画像4枚に続いてテキスト抽出あり)






第1部「人間・竹宮恵子」2増山法恵

同情心B!

ーー映画を観ていて、まんがに生かせるカメラショットとかアングルを無意識のうちに、頭の中に入れてしまいますか?

竹宮 それは私に限らずに、漫画家ってみんなそうじゃないかな。映画というのは、カメラが部屋の中を動いて写すでしょう。その遠近感を全部まんがの一コマに入れちゃうとかはあるけれど。その点はちょっと他の人達とは違うらしいけれど。魚眼レンズみたく遠近感覚を全部入れたいの。奥行きが深ければ深いほど好きだし、人物ができるだけ画面の上に立体的にあるっていうのが好きなのね。生き生きした感じで飛び出してくるパノラマ画みたいなのがいいの。どうしてもそうしようとしちゃう。収まりのいい写真のような絵を描こうと思えば描けるんだけどどうしても好みじゃないのね。まんが描いてて実感伴わないのは嫌になっちゃう。

ーーそういうのは映画を観て、ああいいなーと。

竹宮 口惜しいからじゃないかな。映画にはできるのにね。まんがじゃどうしても展開が動くっていうことを入れられない。それと、音が聞こえないとか、そういうことを何とかして克服しちゃうというのが、私は新人だった頃の大前提だったの。映画を観てくると、まんがは負けてるなということしか考えなかった。今はそんなことないわね。そう不可能は感じないんだけど。でも、まんが界全体がそうかっていうと、それは夢みたいね(笑)。まだ負けてる部分はいっぱいあるし。

ーー自分の性格をどう分析していますか?

竹宮 最近根が暗いんじゃないかと(笑)。それがとっても憂ウツなのよ。

ーー暗い?

竹宮 すごく暗いのね。例えば友人が、自分のとっても気に入らないことをしたとするじゃない。私は相手がとても好きなのに、明らかにそれが相手がいけないということで、いざこざしてしまった。相手がそれを受け入れて、一言ごめんなさいと言えば許すのに、そうじゃないと絶交かどうかということについてまで決めちゃうのね。言っても、相手が軽い気持ちで、そんなことで謝るなんてと思って謝らなかったということで、私はすごく落ち込むわけ。全て説明したにも関わらず、相手がそれに応じなかった。そうすると、その人がいたということを完全に忘れる。本当にそれって名人芸だと私も思ってる位で。そしたら暗いって言われた。
 高校時代に色々あって、あんまりいい思い出じゃなかったりすると、完璧に切り取って忘れちゃうのね。それを妹が「誰それ覚えてる?」て言って、私がその人を忘れていると、ものすごく怒る訳よ。「あなたはこういうことをしたじゃないの」って。普通なら覚えていて当然のような経験なのに、パッと無い訳。全て記憶に無いのね。そこで突然感動的に自分の暗さを発見した。これはカウンセラーに言った方がいいんじゃないか。

ーー竹宮さんはどちらかというと、過去を振り返るタイプではなく、現在を見つめていう方のタイプですね。

竹宮 過去は見ないわね。恥も外聞もなく、バカなことをやるというのは、今ここでしたことを先に行って何とかなければもういいと思ってる(笑)。だkら出来るっていうところがあるじゃない。今、恥をかきたくない人っていうのはすごい用心するでしょう。自分の知識の中で処理しようとするじゃない。知らないことを恥じるじゃない。私は違うの。そういう意味ではあまり過去をみない、ということは言えるわね。

増山 情にひかれてっていうことはないの?

竹宮 ないの。かわいそうじゃないと言って人を使ったりは絶対しない。自分の得にならなければ何でも追い出すという(笑)。猫でも寄りつかせないという。だから、通信簿は同情心がBだったのって言うと、みんなそれは恥よって言うの(笑)。それを初めて言われて、初めて恥なんですかと思うところがまた恐ろしいと。だって、性格だから特徴があっていいんだと思っていた。協調心Bは社会的に問題だけれども(笑)。

竹宮 同情心てあってもなくても構わないんじゃないかなって思っていたのよね。それは女の子だったら同情心はAでなきゃダメよと言われて(笑)。

増山 まぁ、情が深い人と浅い人がいるからね。

ーー難しいですね。

竹宮 返っていい悪いは勿論あるけどね。同情心が厚くておせっかいになっちゃったりとかするけど、人それぞれだと言ってしまえばそれまでだけど。普通女の子はと言われるとすごく困るんだよね。先生は何回も変わるのに、全員Bという(笑)。確実に迷わずにつけているとしか思えないのよね。とっても私には同情心がないのかなあと思って、すごい不思議に思っていたんだよね。で、それを友人同志で話す時、必ず出していたの。私ってそういう人間(ひと)なの。普通だったら同情心Bて隠すのよね。たぶん……。

ーーそうすると、誰かがメソメソしていても?

竹宮 興味はあるのね。その人がなんで泣いているのか、すごく興味はあるの。でもそれを聞いてみて、グにもつかないことだと聞いてみて冷たくそれはバカよと(笑)。あなたがバカじゃないと言うのよね。

増山 よしよしと慰めないのね。

竹宮 慰めるの下手。

増山 慰めたり励ましたりは全然だめ!?

竹宮 それが本当に慰めることだったら、「それは難しいね」の一言位は言うわね(笑)。

増山 それでもちっとも慰めてないわよ。

竹宮 だって、どうやって慰めるの?

増山 だから嘘でもいいし、心がなくとも「気の毒ね」位言うのよ。

竹宮 そんなこと出来ないわよー(笑)。どうしてみなさん、そんなに器用なの? さか立ちは出来ても(笑)。でも私だって慰めが欲しくて、電話する時があるじゃない。それで相手が慰めているのがはっきりわかるの。わかるから慰めてもらったような気になるの(笑)。そういうとこで差し引きゼロになるからいいんじゃないとか計算したりするんだけどダメかな?(笑)。

歩いている方が面白い

ーー落ち込んでても、仕事はできますか?

竹宮 考え始めると食欲は無くなるし、絵を描いててもつまんないしっている事態にはもちろんなるのね。だけど全く関係ない人と、落ち込みとは全然関係ないことを話してると、パッとそっちへ気分が移れるの。その方が合理的でいいんだけれど、人間的な意味でそれじゃまともじゃないんだよね。その処理の仕方がすっきりしすぎているのね。普通だったらひきずるじゃない。ひきずらないから余計気持ち悪いのよね。気持ち悪いと思うとこがまた暗いと思って嫌になるの。昔そんな私無かったから。それっきりだったから。明るくいられたんだと思うと気色悪い訳。何か、記憶喪失になったんじゃないかという気がする。でもそれは、人に会って淋しい思いをしたりとか、悲しい思いをしたりというのは、ものすごく嫌いなのね。きっと。(増山さんに対して)あなたは「告白(註:1979年発表・月刊LaLa10-11月号前後編)」は分かんないし嫌いでしょう。でも私ってすごく密着したものを感じるの。主人公が他の友達と一緒に殺人事件があってごちゃごちゃするけれど、経験の仕方が彼の経験の仕方と、みんなの経験の仕方と全然違うじゃない。そういうことが私にも人とつき合っててあるのね。何か自分だけ違う部分を持ってて、みんなでワイワイやってて同じ時間を過ごしてきたのに、自分だけ違うところを持ってるような孤独感があって嫌なのね。同じものと見て、同じ気持ちで話してる感じが全然ないのね。だからまんが描いてるっていうのは私にはとっても安心感な訳。それは人とズレがあるから、淋しいなと思わない? やっぱり暗いんじゃない。(笑)。

ーー今までの人生の中で、最も自分に大きな変化が表れたのはいつ頃でしょうか?

竹宮 デビューしてもそんなに変わったような気はしなかった。変わりつつありとは思ったけど。

増山 私の方から見たら、作家としてこれだっという瞬間に変わったのは「雪と星と天使と(註:のちに「サンルームにて」に改題。1970年発表・別冊少女コミック12月号)」あたりから変わったわね。

竹宮 そうね。まんが描いててそれまで、これはいいんだって思うことがなかったから。とにかく出口を求めて歩いてるという感じがあったっていうだけで、出口へ着いちゃうとそこまでは難しい道のりなんかはもう忘れる。みんな辛かったって覚える訳? 自分のことっていうのは忘れる。手に入れたものだけ覚えてればいいのよ。だから、同じ経験をもういっぺんしちゃうところがあるのね。ムダなんだけど。

ーー今までで自分にとって一番いい時だなと思えたのはいつ頃ですか?

竹宮 それは「風と木の詩」を載せ始めて「地球へ…」が始まった頃が一番いい時期だなーと思った。その時こそ、自分がどこへ行き着くんだっていう目標が忘れられたの。それって最高だと思うのよ。そういう所へ行きたいんだ、と思ってずーっと努力していて、でももうここへ行かなくってもいいのって思う瞬間ってあるじゃない。今やってるこれが楽しいからっていうときが一番幸せだと思う。例えばぶ厚い本を読んでて最初はすごく辛いじゃない。最後からちょっと前になると、やっぱりすごく面白いところに来るからーー最後に至りたくないーーという気持ちになる。そういう感覚で、ああもういいんだ、目標物なんていらないって思う瞬間がすごく好き。人生歩いている方が面白いじゃない。

ーー少年愛に対してどの位の興味がおありですか? 飽きませんか?

竹宮 飽きたけど…でも、結局何よりも面白い部分でしょう。そういうのを特集してある本は好きなものばっかり載っていると思うとついつい手が行っちゃう、そいうことはあるわね。それは男の子であればいい訳よ。少年愛だっていう形にならなくてもいいのね。自分がそういう年頃の男の子を持ってたら、絶対に興味持てないと思う。間に合ってます(笑)っていう感じになっちゃうと思うの。そういう意味で結婚すると変わってくるんじゃない、って今思い始めたの。昔は変わらないだろうと思ってたんだけど。

ーー少年を描く上で、描きにくい部分、理解しにくい部分というのはどういうところで出て来ますか?

竹宮 私は私の中にある少年を描いてるだけだから、そんなに悩むなんていうこともない。それを私の中の少年だと思おうと少女だと思おうと、それはもう読む人の自由だから。本当の男の子とは違うのではないだろうか、なんて悩まない。どうだっていいもんね(笑)。

ーー人間は人生の中で、何度か運命的な人との出会いをすると言われていますが、その言葉を信じますか?

竹宮 それはあるんじゃない。誰かと出会わなければ自分て変わらないし。増山(ノンタン)が一番なのか、二番目なのか、そこの所があやしいけれど…。初めてかもしれない。

ーーどういう風に変わったと?

竹宮 精神的なハングリーさを教えてもらった。私がデビューして一年位の間に描いていた作品を見ていた人ーー『COM』から「空が好き!」の間を見てきたら、今の私があるとは思わなかった人が多いんじゃないかな? 私自身も思うしね。今の私の目から見て、これは作品じゃないと思っちゃうのばっかりだしね。私の昔の作品だということで価値はあっても、普通以下だと私は今でも思えるしね。それがガラッと変わった訳だから、運命のある出会いだと思っていますけど。

なめくじになりたい

ーー生まれ変われるとしたら女性ですか、男性ですか?

竹宮 やっり女やったから、今度は男やりたい。男やったら、今度は結婚する方が(笑)。別に“のみの人生”でもいいんだけれど(笑)。だから、「火の鳥」を読んでいて、のみの人生は嫌だとか、みじんこなんか嫌だとか言うでしょう。どうしてだろうと思って(笑)。そんなに何回も色んなものになれるとしたら、例えどのような死に方でもいいからやってみたいと思っちゃう訳。みんな四ツ足にはなりたくないとか言うでしょう。わかんないのよね(笑)。

増山 なめくじや、くじらでもいい?

竹宮 私が一番なりたかったのは、なめくじ!(笑)。

一同 え〜!!

竹宮 だってなめくじには頭がなくて、頭脳なんか持とうとは思わないで、黙って死んでくからいいんだ、とか言うじゃない。そうだ!!と思ったの。それが一番いい。頭あるから人間て悩み事があるんだと思って。やっぱり、一番のさそうなのに(註:「のさそうなのに」は「なさそうなのに」と思われる)なりたい(笑)。人目に触れないようにはっいるなめくじなんかじゃなくて、はうなっていうのにまな板の上をはっちゃうようなものになりたい(笑)。

増山 だんだん理解しがたい。

竹宮 無邪気というのが最高にいいの。

増山 ようするに野生なのね。原始なのね。素朴なのね、単純なのね、理屈じゃないのね。

竹宮 コンプレックスを持ってみたりとか、おしゃべりになってみたりとかしてみたけど、そういうのになってみたい。私は影響されきらないでしょ。相手がどんなに羨ましくても、その人に染まるということが全然ないのよね。生まれた様にしか生きられないんじゃない?

増山 亀がライオンっぽくなろうとしても、ライオンにはなれないものね。

竹宮 生まれに満足しているのよね。足の格好が悪いとか、目がとび出ているとか、色々あるけどね。

増山 コンプレックスが?

竹宮 コンプレックスという程のコンプレックスじゃないじゃない? だって所詮どっかで生まれて、どっかで死ぬ訳じゃない、とか思っちゃうのよね。鷹羽あこさんが、人間の体は入れ物だって言っていたのね。だから私は自由になりたい。どうして人間の体は濃いのって、本当に思った。

増山 言えてる。そのとおり!

竹宮「わまりじゅうがこんなに薄いのに、どうして私はこんなに濃いのでしょう」というのがわかる気がした。人の目に触れなければ…。ところがそういうの、暗〜く考えたりするのは嫌なの。

増山 明るく考えればいいのよ。

竹宮 明るく読んだ訳。その話を。鷹羽あこさんて、白血病で死んじゃったの。漫画家になりたくて、回り中から期待されていたの。その人が残したまんがなのね。

増山 遺作集だから、ごく少数の人しか持っていないのね。

竹宮 精神病院の話を描いているんだけどね。

増山 あの人も一種の天才ね。

竹宮 天才ね。

増山 天才だから死んじゃった。20歳だったから、あとどうするのっていう気がした。あそこまで力を持っているから。

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