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【ポーの一族:少女マンガを文学に昇華させた大傑作】

資料提供:https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/gcomic/167011...



pen 2013年06月01日号 通算337号
発行所:阪急コミュニケーションズ
発売日:2013年05月15日




「pen 2013年06月01日号」50-53ページ
ポーの一族
少女マンガを文学に昇華させた大傑作。
(図版に続いてテキスト抽出あり)







ポーの一族
少女マンガを文学に昇華させた大傑作。

人間の世界から遠く離れた、バラの花咲くポーの村。
そこでバンパネラとして永遠の時を生きる少年を描いた『ポーの一族』は、少女マンガの新境地を開いた。



少年のまま生きる運命を背負わされた吸血鬼、エドガーの物語『ポーの一族』。舞台は、18世紀のイギリスを中心とする幻想的なヨーロッパだ。

幼いエドガーと妹メリーベルは、森の奥に捨てられるが、老ハンナ・ボーに拾われて育てられることになる。だが、彼女らはポーと呼ばれる吸血鬼(バンパネラ)一族で、村に正体を隠して暮らしていたのだった。

エドガーが14歳のとき、老ハンナは人間の村人によって胸に杭を打たれ、消滅する。そしてエドガーは、一族で最も濃い血をもつ大老ポーにより、一族に加えられてしまう。

その後、妹のメリーベルや友人アランといった主要登場人物らが一族に加わって彩りを添えてゆくのだが、「永遠」を手にしたはずの彼らポーの一族は、常に安息を脅かされ、年老うことがない故の孤独や悲しみを背負い、結局「永遠」を失う(=消滅する)運命をたどる──。



時代を先取りして、
少女マンガの新境地を開く。

執筆当時、作者の萩尾望都は3つの異なる時代設定で3部構成の長編を予定していた。1話100ページくらい想定していたという。しかし、企画はすぐには受け入れてもらえなかった。それでも萩尾の作品に対する思いは強く、諦めることはなかった。

1972年発表の『すきとおった銀の髪』を皮切りに、『ボーの村』『グレンスミスの日記」ら3本の短編から掲載は始まった。読み切りの短編に同じキャラクターが何度も登場するうちに編集部も「そうまでして描きたいか」と折れ、本格的に連載『ポーの一族』が開始されることになる。

掲載当時の『別冊少女コミック』ではまったく反響がなかったものの、74年に発行された単行本は発売からわずか3日で3万部を完売。理由として、当時の別冊少女コミックのターゲットである小中学生には内容が難しすぎたが、単行本化してひとつの作品として成立したことにより、本来の読者が「遅れてついてきた」といわれる。

萩尾望都の作品は、小説家やマスメディアなど、クリエイティブな表現に関わる愛読者が多い。媒体は違えど、想像力の源にあるのが昔読んだ『ポーの一族』だったという人が跡を絶たず、その影響力は計り知れない。

詩的な画、台詞、独特の空気感と時間の感覚…少女マンガの開拓期にあって、それまでの枠を超えて描かれた“ポーの世界”は、少女マンガを昇華させ「文学」の域まで高めたその先駆けだったのだ。

『ポーの一族』を読むと誰もが「時空のゆがみ」を強く感じる。その不思議な感覚は、作品の醍醐味のひとつだ。

物語は時系列に進行しない。ある話はエピローグからプロローグに向けて時間を遡るように描かれる。「グレンスミスの日記」がいい例だろう。ポーの村に迷い込んだ先祖の日記を30年以上の時を経た子孫が見つけ読む。そこにエドガーが居合わせ日記がそこにたどり着くまでの過去を遡ってゆくという具合だ。

短編と短編の関係性も未来の話が先に出たり、謎解きのヒントが隠されていたりする。こうしてポーの世界の時空はゆがみ、絡まり、読者は登場人物をたよりに過去といまを点と点でつなぐように読み進めることになる。

「自分でもうまくつながるかな?とハラハラしていました(笑)。 ミステリー小説が好きだったので、現在進行しながら過去を振り返り、事件を解決していくような手法が面白いんじゃないかと。英国のミステリー作家、ヴァンダイクがマザーグースを引用したミステリー小説を書いていたのですが、マザーグースの言葉遊びの妙も面白いと思って取り入れましたね。 破天荒で教訓的なところがなくて」

「だあれが殺した? クックロビン
 それはわたしとスズメがいった
 わたしの弓と矢羽で
 わたしが殺した クックロビンを」

ところどころ引用されるマザーグースの不思議なリリックも、「ゆがみ」の感覚を助長した。それらはさりげなく引用されていたが、当時の読者は注目し、のちの日本でのマザーグース人気を助長したともいわれている。



シビアな結末も厭わない、
妥協のない作品。

中学生の頃から「自分はどうしてここにいるのか?」と自問し続けてきたという萩尾。永遠の謎に対する答えを求め、想像し続けた結果、生まれたのが独特の萩尾ワールドだ。

「ポーの一族は、いわば宇宙人のようなものです。 最終的にみんな消滅し、エドガーだけが取り残されるっていうのはシビアだと思いますが、そういう世界が好きだったのです。私は手塚治虫先生の影響でマンガ家になったのですが、先生の作品もシビアな結末がたくさんありますよね。子どもごころにも、コミュニケーションにおいて安易に妥協しない作品は読んでいて非常に気持ちよかった(笑)」

ラブコメ全盛の少女マンガ界で、少年を主人公にしたのも画期的だった。「私たちの世代というのは、女の人はこうあるべき、という教育を受けてきて。そういうのは聞き流していたつもりだったのに実はすごく縛られていた。男女間の恋愛の行く先にはセックスも入ってくるし、子どもも生まれて……そういう規制があると、ファンタジーのほうへは行きにくいんです」

少年を描くことでジェンダーから解放され、時空をゆがめることで自由自在に羽ばたいた萩尾望都。『ポーの一族』はここではないどこかへ誘ってくれるSF作品でもある。



pen 2013年06月01日号 通算337号

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