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【座談会:竹宮恵子、實吉達郎、たらさわみち、増山法恵】ジュネ1985年07月号・JUNE TALK
『アナザー・カントリー』『風と木の詩』…… パブリックスクールの周辺から少年愛の美学まで
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ジュネ1985年07月号(23号)




ジュネ1985年07月号(23号)15-21ページ
JUNE TALK
『風と木の詩』から『アナザー・カントリー』まで
(図版に続いてテキスト抽出あり)









ジュネ1985年07月号(23号)15-21ページ
JUNE TALK
『風と木の詩』から『アナザー・カントリー』まで
出席者
竹宮恵子
實吉達郎
たらさわみち
増山法恵

『アナザー・カントリー』
『風と木の詩』……
パブリックスクールの周辺から少年愛の美学まで


「監視の目がゆき届いたところで、妖しいことがやたらあるから不思議なんですよ」
「同性愛は徹底的に浮気者です」
「女の子には、ああいう信頼関係は無理だとはっきり思います」
「私は先生とからむっていうのもやりたかったから」


──少年達の隔離された世界としての面白さが全寮制スクールにはあると思うのですが『風と木の詩』に関してはいかがですか。

竹宮 私はそもそも『風と木の詩』のために、ホモセクシュアルの状況を作るために学校制度を考えたところがある。本当はフランスには、イギリスのバブリック・スクールのような制度はあまりないんだけど、 無理矢理にもってきて…私学だから良いんだとか言って。

増山 それがマンガのすごいところね。

──フランスにはないんですか?

竹宮 ちょっと違うんじゃないかな……映画の『悲しみの天使』みたいに、あれも全寮制だけど、パブリック・スクールほど規律や上下関係は厳しくなくて、もっと上級生と下級生は仲良くしやすい環境。

増山 フランスの方が、もっともっと個人主義。

實吉 たいへんそのへんの設定が良いと思います。もし、『風と木の詩』に描かれているような制度があったら、事件続出(笑) あの程度じゃすまない。

──やっぱり愛の国ですからね。

實吉 ただ、ジルベールの享受している自由というのが、たいへんフランス的だと思います。

竹宮 それはそうなんです。だから私もすごくフランスでないとまずい……(笑)

實吉 私、学習院の昭和寮をテーマにして小説を書こうと思ったんですが、どうも日本の雰囲気にならない。中まで入った人間として雰囲気は分るんだけれどもネ。夜になると“だべりこみ”というのがありまして、新入生の部屋に上級生がトコトコやってくるんですよ。夜っぴいてしゃべって寝かさないって聞いたんです。寝かさないからには、それだけですむはずはない。何かある(笑) 目白の寮に入っていない、通学している我々にもわかったわけです。泊まり込みの学生寮だったら、何かあるわけで…作りごとをかまえて書いてやろうと思ったら、なんか、日本的な雰囲気がない。だから、竹宮さんの設定はうまいな、と思います。


──日本の学生寮みたいのはドイツがお手本なんですか?

實吉 学習院ではイギリスがお手本です。初めドイツだったそうです。 第一外国語もドイツ語だった。それから、皇室というものがありましたから、イギリスにならって寮制度とか全体の雰囲気ができたわけです。非常に高級ムードだったんだけど、私が入る頃から軍国主義時代で、むしろ学習院にふさわしくない、やぼったい剣道とか柔道とか勝負の精神とかいうことになって。それまでの外国のハイカラムードがねじまげられた時代に入ったわけです。だから、僕らの父や兄の時代に入った人に聞かないと本当の事はわからないわけです。

──察に入る年令は何才くらいから

實吉 旧制中学二年から。今でいうと13才 から上です。13、14、15という一番危いところを寮生活。二年生は全学生、全部強制的に入らなきゃいけない。三年生は選択で。寮の棟が全部で六棟あって、その内二棟が三年生。そこで交流ができあがるわけです。こっそりしのんでいくとか。試験はそんなにうるさくないんだけど、自習室とかあって、やかましい。教壇があって先生がいる。いねむりもできやしない。13才、14才、一番いねむりがしたい時。先生が廻ってくるし、マンガ描いてるわけにもいかない(笑) それが終ると、洗面、お風呂に行って。寝るまでの時間がきちんとあるわけです。三人部屋がズラッとあって。 “コ”の字にあって、真ん中、中庭です。でも、この中庭に下りちゃいけないんです。いかにうるさいかわかる。池があって植木がある、きれいな庭にいっちゃいけない。いつも鍵がしまってる。舎監の部屋があって、トイレに行くのに中庭をつっきって行けばいいのに遠まわりする。それというのも、以前入ってた連中がお庭をメチャクチャにしたらしいんです。タブーができた原因。

竹宮 私の田舎の普通の小学校の中庭に、その広さにしては大きすぎる池があったんです。ハスの花とかあって……どういうわけか、そこだけは誰も通らないの。行ってもかまわないのに……そういう所ってすごく好きなの私。シチュエーションとして。

實吉 全寮制の寮がありまして、そこに少年たちが何十といて、舎監が二人。それはその学校の先生なんですが、泊まり込みなんですが、
平生、その子供たちに教えてる先生なんです。日曜になると家へ帰れるわけなんですが、帰宅とも言わず“御気嫌うかがい”というんです(笑) お前たちは全部を寮にささげているんだから、もう家に帰っちゃいけないんだと……特別に許すから、親孝行してこいという主旨なんです。そういう監視の目がゆき届いた所で、あやしいことがやたらあるから不思議なんですよ(笑) 必ずあるんですよ。

たらきわ それだからよけいにあるんじゃないかしら。

實吉 寝静まった時、二階で音がするとか下りる時は12段の階段があがると14段だとか……階段の怪談(笑) そうすると、何代か前の少年がそこで自殺したとか、そういう話がどっからか伝わってくる。先輩関係が全部親類だったりしますから、どこからか伝わる。根も葉もないんだけど、誰かが夢遊病だとかいう噂もたつ。全体のカギがかかってるから個室のカギはかけないわけです。夏になると、ベッドの机に穴があってカヤをたてるんですけど、そこに毎晩のぞきにくる奴がいるんです。こわいんですよ。ただ、ジーッと見てるという(笑) そ
れが、誰それだという噂がたつんです。

竹宮 それを確められないっていうのが不思ね(笑) すぐわかりそうなものだけど。

──上下関係の設定っていうのは、あった方が良いというので?

竹宮 それはそうです。規律っていうのと、年令的なものがないとだめだし。

──ラコンブラード学院は何才から?

竹宮 パブリックと同じで、7才ぐらい、小学校入学から高校卒業ぐらいの年まで…。

──制度には実際ないけど、話の中で作ったっていうようなのあります?

竹宮『if…』を見ているせいで、その影響は受けましたけど、パブリックの勉強は特にしませんでした。どうせ作るんだからと思って……赤いサッシュベルトがどうこうっていうのも、私が単独で、そういう制度もあるだろうと。『アナザー・カントリー』ではベストが、名誉のしるしだったけど、私は、サッシュベルトを名誉の象徴にして、小さい子の中にもチラホラいることにしました。

實吉 セバスチャンが告白するという……あれは良いアイディアでしたね。

竹宮 そういうのを作っちゃったんです。そしたら、『タッブス』では肩帯をつけてるのが特別のしるしだった。

たらさわ あれは兵学校でしたね。

實吉 サッシュベルトはオール赤だったけど、上級になると色が変わることにすればもっと良かった。

竹宮 そうですね。私はチョッキを着て良いのがBクラスになってからとした。そういうのをみつけただけ。あと制服のたけがとんどん長くなってゆく。バラエティーが欲しくて……小さい子にはベストを着せたい。そういうのを作ったといえば作った。


──『アナザーカントリー』は先生が全然出て来ませんでしたけど、ああいう所で先生の影は薄いんですか?

實吉 薄いんじゃないですか。すごい自治制度だもん。処罰まで生徒がする。

竹宮 社会に出てからのレッスンの一つにしてるんだと思うんですよ。私も先生との関係ってどうなってるんだろうって思って。まあ、自治の部分と政治的にからみあってるんだろうと思ってました。あんなに完全に自治とは思ってませんでした。私は先生とからむっていうのもやりたかったから。

實吉 ルイ・レネ先生の人生がちゃんと描けててすごいですね。『風木』のセルジュの父親とルイ・レネの青春が描かれててすごいな……と。後になって極をむすんでるんですよね。よほど何か精密なノートでも作ってるんですか?

竹宮 そんなこともないんですけど、好きになったわき役っていうのは、どこかでだいたいでも良いから描きたいっていうのがあって。何かを第三者的な目で語るときはできるだけ自分の作ったキャラクターを出して語れるのならと。欲が多くて出しすぎちゃって、収拾がつかなくなったり(笑)

實吉 ちょっと収拾がつかなくなったかなと思ったところもあったけど、でも、ちゃんと収拾をつけている。舞台監督みたいに目を届かせているから。

竹宮 でも時々あの人忘れてたとか(笑) あの人いたからここで使わない?とか…。

實吉 文章を書く時ですと、最初、主人公の容貌を示しますでしょ、ホクロがあったとか、するどい眼とか……すっかり忘れてる時があるのね。頁を読み返して、あっいけね。目がするといんだったとか(笑)

竹宮 印象が変わりますでしょ、人物の性格も状況によって微妙に…。そうすると、最初の頃のをパッとあけてみると、印象が全然違うんですよね。

實吉 でも、その辺ちゃんと描いていると思いますよ。マンガの主人公って全然変わらないのが普通でしょ?でも、髪は伸びるし、背が高くなるでしょ。四冊ぐらい前みると、たしかにあどけないんですよ。それが、だんだんと青年ぽくなるのが、ちゃんと描けてるから、これはとんでもない作者だな、と思いました。

竹宮 しばらく出て来なかったところでチラッと少しずつね、

實吉 セバスチャンの性格はだいぶ変わったと思いましたね。

──安彦さんは成長してほしくなかったとおっしゃってましたね。

竹宮 そうなんですよね、それもわかるんです。あちらが言うのも。でも、成長しないのがごく普通だったから。そういう意味では成長物語みたいのもやっておきたいという気持ちが強かった。

實吉 少しずつ成長のあとを描き加えていかれるから、ガラっとは変わらないから、異和感なしについていけるんですよね。ある日気づくと、いつのまにか他の友達より一番背が高くなっている。十何巻になってから、そういえばジルベールより背が高いんですよ。

竹宮 だから、ジルベールのが可愛く見えるというパターンを。彼の方が男らしくて頼れる存在だということを付けないと、パリでの話はできない。順々にやりましたけど、背が高く、なったとか、高変りしたとか、強調して…。

實吉 声 変りとかは、マンガや小説のが良いんだな。実際に聞こえるわけじゃないし。実際に上唇にひげがはえてきたとか描写すると、とたんに少年が嫌に見えてくる。変化の激しい年頃だから、リアルに描けばそうなんです。ところが、それを描写すると、急にふけたような気がして嫌になるものだから、時々、永久に年をとらない少年を出したりするのは、そのためなんでしょうね。

竹宮 『if...』の方は、パブリック・スクールなんだけど、『アナザーカントリー』と違って、その点、むさいというか汚いというか、男の臭いというのがムンムンという感じで……あれはあれで、面白いとは思いましたけどね。わざと、ひげをはやして帰ってくるの。

實吉 現実にはひげをはやした子なんかいっぱいいる。その方が可愛いいって感じの子だっている。でも、それを文章や映像で見せてしまうと、とたんにシジむさい。

増山 特に女の子は美しくないというのに耐えられないから…。

實吉 戦後少女マンガ家の勉強なさったところなんだけど、従来、少女マンガ家、挿し絵画家っていうのは、中年の男を描くのがきわめてヘタだった。あどけない顔をそのまま老けさせたような(笑)

竹宮 今でもまだそういうことある(笑)

實吉 そこを特に竹宮さんなんかはわかるように描いている。

竹宮 でも、最初はなかなか器用にいかなかった。でも、あんまりおじさんが出てくるもんだから(笑) 必要に迫られて上手くなってしまったところが…。でも、今では好きになってしまった(笑)

實吉 良いじゃないですか。それでなければ(笑) 微妙な成長を描けるところが別れめですよ。確かに30才と35才は違うんです。違うんだけど、それを表せるかということになると…。

竹宮 時々、読者の熱望に耐えかねて、もう少し、若く描いてあげようかな…とかそういうこともあるんですけど。

實吉 アトムに書いてありましたね。アトムが人気が出ると足が長くなるんですって、そうすると、人気がどっとなくなる。もう一度短く描くとまた人気が出る。必ずそう なんですって。


──成長したくないんでしょうか?

實吉 長したくないんだね。永久少年だから……読者が子供だとは限らないし。

竹宮 精神的にもそうでしょうね。私は、パブリック・スクールを描くんだったら成長がないとつまらないから…。あそこで、ゴチャゴチャに小さい子からずっと混じりあっているというのだから、やっぱり、成長していく様を描かなきゃつまんない。ただ、予定より一年早くジルベールは死んじゃったの。17才までだったの。

──それはなぜ?

竹宮 しんどくなっちゃったの。パリの生活がやってて、私もしんどい、やめよう、と。少し早めたきらいはあります。

實吉 あのあたりになると、昔の日本の小説にあった、主人公の少年が苦労する話に似てくるんですよね。だから、読んでても少ししんどくなって、早くこの状況を脱しないかと思うんです。ところが、主人公は作者の思うとおり動かなくなるんですよね。 好き勝手に動いちゃって。

竹宮 そうですね。

實吉 僕も追悼文に書きました通り、まさか、ああいう状況でああいう死に方をするとは夢にも思わなかった。おそらく、少女マンガだから、甘い死に方、病死だと思ってました。これは、やはり、どうしても彼のやせた広い胸に抱かれて死ななきゃ、死にようがないと(笑)

竹宮 なんとなく望み通りにしたくないというのもあって。ひねくれまして。でも、あの死に方自体は最初っから……あんまりじゃないと言われながらも、それに執着していた。そこで、オーギュうんぬんというのは、後で考えたきらいがある。馬車だというのは、ずっと…。

増山 すごい悲惨な死に方。

竹宮 最初はもっと克明で、もっと悲惨な死に方だった(笑)

實吉 かわいそう(笑)

竹宮 しのびなかった(笑)

増山 読者はジルベールの死をオーギュがどう受けとめたかを知りたいのね。

實吉 ある読者は、あの馬車に乗ってた手しか見えない人物がオーギュだと。

竹宮 そういう人もいましたね。

實吉 そうすると、父が子を殺したことになる。

竹宮 そういうのは状況から判断するとおかしいんでね、やっぱり。

増山 描かないのが私は良いと思うんだけど、やっぱり、読者は知りたがる…だから、オーギュが泣き伏してるところでも描いたら?(笑)

竹宮 ちょっと待ってよ(笑) 泣くわけない(笑) そういう人じゃない。

實吉 泣き伏さないんじゃないかな。

竹宮 それくらいなら追っかけています。

増山 連れ戻すのがせいぜい……どうして描かないというおしかりの手紙が多かった。

竹宮 オーギュの意地の固さはそんなもんじゃない(笑)

増山 そのオーギュに人気があつまるのが不思議。

竹宮 一番かわいそうだったという人もいるし(笑) 一番幸せだったと言ってもいいんじゃないかと。

實吉 そうすると、オーギュには一つの父のイメージがあるのかもしれませんね。若くて深刻で、貴族的で色が白くて、神経質で……それでいて、自分の子供には異常な愛を持っていて……その異常な愛情がああいう風にしか表れない、という個性をもったお父さんというのは、少女たちのお父さんの中にはありません。

竹宮 そうですね。母性本能がそれを良く見させちゃうというか、母性本能があるから、ああいうお父さんを望むというか…。 所有してくれる人を望むんじゃないかな。物わかりが良すぎて、だらしがないというか。

實吉 私の年代がそうです(笑) 最悪にそういう人が多い。優しいお父さんばっかり。教育者としては失格(笑)

──自信がないというのもあるんですか? 体制が戦争で変わってしまったために。

實吉 僕の父たちはたいへんに楽だったんです。今まで通り国家体制をカサにきて、えばっていれば良かった。

竹宮 最近、親も学校もだらしないんで、千葉に軍隊式の学校があるってTVで。子供たちもダラダラしてるのが嫌だったんで気持ち良い、朝起きるのだけはつらいけどとか、親たちは、帰ってきたら言葉使いまできちんとしてと言って、子供も親も嬉しそうで

たらさわ それ通学制じゃないの?

竹宮 全寮制。

増山 ただ女子もいるの。

竹宮 新入生はスリッパをならべるのに必死で…。暴力はないけれど、上下関係がピシッとしてるのは、昔どおりで。学生服に肩帯を付けて、軍隊式の行進…。

實吉 僕の知りあいの子供が成長して警察学校に入学して、普通の子だから、へーっとか思ってたら手紙よこして。「男の世界です」とかワクワクした手紙で、規則に従うことにマゾヒスティックな喜びを感じているらしい。一斉がっさい、自分のすることを教えてくれるわけだから、ある意味においちゃ楽なんだ。


──考えることは他にまかせて。

實吉 たぶん竹宮さんのおっしゃる子供たちが生き生きしてるっていうのは、それもあるんじゃないかと。

竹宮 やることがあるから。…今、やることがわかんない子供がそういう所入って、あれをやりなさい、これをやりなさいって言われると幸せなんじゃないか(笑) でも、 私は上下関係が厳しいのは好きだったんだけど、徹底しないからつまんないと……

増山 それは無理よ。今の教育制度じゃ。

竹宮 下から徐々に上っていくでしょ、そうすると、教えられてた方がずっと良かったとわかるでしょ、苦労とかね、必要なことだと思うんだけど、上下関係って…。

──目的集団っていうと合唱団っていうのはそうですよね。合唱という目的のために集まって……全寮制ですか?

増山 有名な所は多い。

竹宮 テルツなんか違うし……

たらさわ あれは歴史も浅いし…….歴史の古い所はね。

竹宮 教会からしか合唱団は出てくるのがなかった。

増山 教会よりも合唱団の方が有名になっちゃったり。

──自発的に入るんでしょうか?

たらさわ 自発的な子はないんじゃないかと(笑) 7才か8才の子が…。

増山 中には一人か二人、歌いたくて歌いたくてしょうがないっていうのもいるんじゃないかしら。

實吉 一種の専門学校じゃないんですかね、それに向って体調から食べ物まで備えるからね。ある種の物は食べちゃいけないそうですね。声が悪くなるから。一般の勉強もしないといけないということになると、どこかに押し込んで、全部均一にしてやらないと。

竹宮 小さいからね。


──必要だということで、あの制度には問題がない?

實吉 問題ないんじゃないですか。専門家養成なんだし。

増山 レーゲンスブルグなんて公的な音楽学校なんですよね。それなのに先生は堂々と成績よりも何よりも声の良い子をとります(笑)

──高野球にちかい(笑)

竹宮 才能重視。

増山 合唱第一。歌のために作った。補強するために作った…。

竹宮 才能っていうんじゃないわね、一つの笛のような音を出す機械のような形で選ぶ……

──歌っていうのは神に捧げるために歌ってたんですか。

増山 聖歌隊はそうだけど、例えばウィーン少年合唱団は教会にも属してない。団長さんがうちはどこにも援助をうけてないってとても自慢する。お金は巡業でもうけてる……教会と縁がないっていうのを誇りに思うくらいだから。単に契約して週に一回教会で歌う。

たらさわ 他にああいう例はないんじゃないかしら。

實吉 ないでしょう。ヨーロッパで合唱がそもそも生まれたのは教会ですもの。グレゴリア。竹宮さん、だいぶ『風と木──』 に聖歌をお入れになりましたね。ラテン語で……カトリックの聖歌集とか御覧になったんですか?

竹宮 いえ。聖歌の本とか持ってますけどどういう意味で言われてるのか、わからなくて、こういう風に使ったけどおかしくないかとカソリックの人とかに聞いたりしました。

實吉「神の少年」とかカトリックにしかありませんし、ミサ用の聖歌集御覧になったんだと思いました。

竹宮 そうじゃないんですけど……(笑)

實吉 グレゴリアンっていうのは実に歌いにくいんです。喉をころがすような感じで……(実際に歌ってみせてくれる)

──ああいうのは、カラオケの喜びとはまた違う…。

實吉 あれとはまた違う(笑)

──自分というのをすごく出すのがカラオケで、逆に合唱っていうのは、自分じゃなくて…。

増山 ハーモニーというか調和がね。

──その子の個性を出しているんじゃない…。

竹宮 そうじゃない。だから、個性のある子が合唱で失敗する話を描きたい(笑)

増山 ソロをとる子も結局、典型になってしまう。

──ワクというか理想があって、それにあてはまる、という。

増山 例えば、とてもハスキー・ヴォイスでは困る。ソプラノを取るパターンっていう……ただ、ドイツ式とスペイン・フランス式の発声ってあって、暑い国のパーッと明るい発声とか。

竹宮 ドイツの抑制されたのも良いんだけど…。


──やっぱり歌だから良いんでしょかね 他の目的のためにやってたら……極端に言ったら、ラグビーやってたり……(笑)

増山 少年合唱っていうのは、足穂があげてる通り、この世界に不可欠というか…少年の声、ネクタイとかね。あれ読んで私は初めて、あっ教科書を読んだなって…(笑) その種の世界の。

竹宮 期せずして二人一諸に買ってしまったのね。何なの、こんな高い本買って……二人で一冊で良いじゃない(笑)

──何て本ですか?

増山『少年愛の美学』です。あれはずいぶんと勉強になった。イマジネーションを羅列するだけだったものを、きちんと公式を教えてくれたという(笑)

竹宮 間違ってなかったっていう感覚。中から一つか二つ知らないことがあったというくらい。パブリック・スクールの中には、そういう条件がたくさんある。寮生活の中には。

増山 まさに少年愛の美学、が。

實吉 足穂さんていう人があれを書いた時すでに御年配だから、たいへん書いてある事が歴史的なんです。

増山 お稚児さんの世界ですね、あの方の世界は。

實吉 だからその伝統が残ってて、学習院では最後まで残ってた。だから、上級生が下級生を愛することを“稚児る”と言った、だから、誰それは、實吉の稚児だという場合は、“實稚児(さんちご)”だと言った。(笑) 僕の近くに香山くんという子がいましてね、別に仲が良いわけでもなんでもない、ところが、その子が一つ下だったんです。中等科に入って、初等科と中等科でガラっと世界が違う。たった一つしか違わないのに……まるっきり子供くさい。それで、自分たちがどう上級生に見られているか知るわけです。そういう風に見られるのか、フーンっていうようなもんです。それで、僕が二年生になって、香山くんが入ってきたら、さっそく“實稚児”って名前がついてるわけです。行き帰り一諸に帰ってきてるの、ちゃんと知ってるわけです。それぐらいのもんなのです。家へ行って、押し入れの中でどうこうっていうのも話は聞いたけど、話を聞いた程度のもんでね。その頃の僕のあだ名がね、“稚児もさり”でね、人の稚児を取るという常習犯だったらしいですよ(笑)

増山 日本は宗教的な背景がないだけに、私たちには何の抵抗感がないですね。

實吉 まったく日本にはないですね。何しろ『古事記』にも書いてあるくらいだから。否定的に書いてるのが半分くらいですからね。でも、否定的に書きながらも、どこか楽しんでいる様なところがある。


──ああいうのは一時期だから良いんでしょうか?

實吉 いやそうじゃないでしょう。ずっと続くんですね、同性愛っていうものの動物的起源にまで逆のぼるんだけれども、そういう行動に性的満足を感じる体質と感しない体質とはっきりあるわけです。それが、百人に一人とも言えば、四人に一人とも言ってわからないんだけれども、残念ながら、少数派だから、公然と発言をする時は、その事柄にはふれないという風潮ができている。我国では、それを罪悪だ犯罪だとは言わないわけです。これは国民性。なぜそれに快楽を感じるんだと聞かれても、感じるんだから仕方がないとしか答えられない。 (笑) そうでない人は感じないんだから、“変態”とか色々言うわけでしょう。そういう彼らは女性としか感じないというまでのことです、同じことです。

──一対一の場合永続しにくいといますが、なぜなんでしょう。

實吉 だって、それはすぐ老けちゃうから。少年は、

──という事は、相手そのものではなく、相手の中の何かを見ているんですね。

實吉 事実、おひげが生えたら愛せない、という。

──ひげが生えるくらいで愛せないというのは、ある意味で不純なのでは。

實吉 それはそうですけれども、滑らかなはだを愛していたのに、無毛の上唇に魅力を感じる者が、そこに、ジョリジョリとひげが生えてきたら、抵抗を感じるじゃないですか。愛する者というのは、主君とか上級生とか、とにかく上の者ですから、あえて貞操を守るほど殊勝な上の者はいないでしょう。その意味では、同性愛は徹底的に浮気者です。次から次にならざるをえない。

──そこが男女のと一番違うというか、不思議なところですが……

實吉 別に不思議じゃないと思うけどね、それは仕方ないんじゃないかと。

竹宮 男女は別に自的があるから……女の生き方って違うし。

増山 それが一つの少女マンガ界にブームを起こしてしまうほどに、少女たちがそれを支持したというのがなかなか面白い。

實吉 我々、中年男性はそれが不思議です。女の子が!!って…男の子なら自分もやるだろうからわかりますが…女の子は無理でしょ!? 女の子が少年と愛しあったら、それは男女の愛になっちゃう……だのに、基本約に干渉できないものに対して喜んでいる。不思議ですね。

──JUNEに届くお手紙の一部を読んでいて感じられるのですが、干渉できなくて自に関係がないからこそ好きだっていう のもあるみたいです。結局、男の子と付きあいだすと、女の子は、自分の身にある種の危険…とは言い過ぎかも知れませんが、起こる可能性があるわけで……男の子に興味はある、だけど、自分の身は安全においておきたいっていう女の子が自分ではなく、男の子同志にして、自分を安全にしておきながら、性的関心とか男の子への興味とかが出始めた時に一時期好きになるというのもあるみたいです。

増山 それは第一段階ですね、それから、もうちょっとポリシーの中に組み入れて。


──『風と木──』というのは、女子校ではできませんか?

竹宮 私は女の子には、ああいう信頼関係は無理だ、とはっきり思います。(笑) 質としてそれは無理です。女は自分を守るのが本質だから、それしちゃおかしい。女が男のように信頼関係を大事にするだとか、プラトニックな愛情をまじめに考えるだとかいうのは、女にはそもそもないです。ない質だからこそ魅かれてしまう。でも、こっちのが良い!!って(笑) 私もなんで男じゃないんだろうって思いつつきちゃったから、どうしてもそう思う(笑)

たらさわ 読者はそう思ってるかもしれないけれど、描き手として、ああいうものを描いてしまうのはなぜなんでしょう。

増山 そういうのは、もう第二段階に入っているのじゃないかしら……それを誰かが描いてくれる、空想して楽しむっていうのが第一段階であって、単なる遊びで終っちゃう。それが創作にまでかかわってくると、と、その人の人生を決めてしまうというか(笑)

竹宮 私なんて、私の本質にぴったりの話だわ(笑)

實吉 それをうけたまわって安心しました。どうも単なる趣味にしちゃのめり込みすぎていると……(笑)

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