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【対談:寺山修司・竹宮恵子】

初出:Passe Compose・パセコンポゼ:1980年09月10日
再録:続マンションネコの興味シンシン:1984年10月5日



Passe Compose パセコンポゼ 過去完了形
出版社:駸々堂書店
発売日:1980年09月10日



続マンションネコの興味シンシン
発行所:角川書店
初版発行:1984年10月05日




対談:寺山修司・竹宮恵子
図版は「PasseCompose パセコンポゼ 過去完了形」より


図版は「続マンションネコの興味シンシン」より
(図版に続いてテキスト抽出あり)














寺山修司VS竹宮恵子
たとえば左巻きの迷路の旅人など

竹宮 迷路って好きなの。“左巻きの迷路の旅人”なんてタイトルは?

寺山 “左巻きのパイプ”なんて、なんとなく格好いいと思わない。タイトルとしてね(笑)。ああ、それで思い出したけど、腸って左巻きなんだってね。迷路ってのも左巻きが多いんだって。パーティーなんかでも、入口から入って左の方へ無意識に行く人が多いんだって。

竹宮 畳は右に巻いてるけどね。

寺山 へえ、そうなの。変なこと知ってるのね。

竹宮 なんかババクサイ(笑)。

寺山 僕は盗聴器ってのに興味もってるけど、あれは歯医者さんと組むのが一番いいんだってね。歯にうめこむ。しゃべってる一番近くなわけでしょ。一日中しゃべってる言葉を全部復元して半年くらいやったら、どんな文学者が書く文学よりある意味で迫力あるんじゃない。一字一句修正しないで、全部文字にするの。選ばないでさ。「エ・ラ・バ・ナ・イ・デ・サ」って全部。

竹宮 すごい厚い本が何冊も出来ちゃう(笑)。

寺山 潜水艦についてるのぞくのあるでしょ。カメラもそういうのがついてて撮れればいいのにね。今のは向き合わなきゃいけないじゃない。決闘の感じなのね。面白いことやったことがあるの。広い中庭みたいなとこで、背中あわせで、決闘みたいに両方でカメラを持って十歩歩いてもらって、十歩目でお互いにパッと向き直ってカチャってやってね、一回だけで現像したのね。そしたら、きちっと顔を撮ってる人と、とにかくシャッターを押した人といろいろなの。三十人位の人にやってもらったんだけどね。

竹宮 そういうのは何がわかるんでしょう(笑)。

寺山 やっぱり慎重な人と格好を気にする人とね。百人以上の人がズラーッと見てるから。プロは その場の格好を気にするから、カシャッと写しちゃう。ところがアマチュアは、もぞもぞもぞってして、それからカチャッと押したりして、きちっと写ってるわけね。

竹宮 私だったら、当然七歩目でふり返って、相手のふり返る瞬間を写す。動いてる写真って好き。

寺山 プーシキンの「その一発」って小説知ってる? 決闘の話なんだけど、お互いにパッとふり向くと、先のやつが格好のいいやつで、 ダーンと撃っちゃうけどあたらないわけ。もう弾がないのね。あとの一人は撃とうとして、やめるのね。相手が桜んぼのタネをペッペッと吐き出して、ひらき直って、さあいつでも撃てって格好してるから撃ちたくなかったのね。自分も撃ってもはずれるかもわからない、あたりっこないってことを相手も見抜いてるし自分もわかってるんだ。それから、十何年間森の中に入って、仕返しのためにピストルの練習をする。そして相手がそのことを忘れちゃって、女房、子供と平和に暮してると、ある日訪ねて来て、「借りた一発を返しに来た」(笑)。
ロナルド・サールの「セントトリスタンス物語」って、一度映画にしたいと思ってるんだ。知っ てる? すごく厳しいミッションスクールである日突然生徒達が叛乱する。パッと表紙をめくるとシスターが校庭で、農家のくわみたいなのがザクッとささって死んでる(笑)。

竹宮 絵本なんですか、それ?

寺山 漫画なんだけどね、いわゆる擬似ドキュメントなのね。すごいの。校長先生をのこぎりでひいたり、それに対して十字架をぶらさげたシスター達が、セーラー服を着た生徒を牛の上にさかさにしばってたたいたり。マザーグースみたいな軽い甘い感じと、中世的なヨーロッパの宗教に対する造反がうまくまじってる。イタリアとフランスの女学生を大量に使って映画にする話があったんだけど、突然プロデューサーが台湾でロケするって言い出して(笑)。人件費が1/4だから。でも女学生を台湾につれてってとるなんて、非人道的な感じしない?
少年探偵団てあるじゃない。 少年探偵団て子供の頃入りたいと思ってたのね。でもあれは、本当は両親がそろって家がきちっとしてないと入れないのね。ダイナースクラブみたいなもんなのね。結局、夜遅く外出している子はよくない子でしょ。でも怪人二十面相の方は主に夜あらわれるじゃない。そのためにね、親が片親しかいないとか、家が貧しいとか、そういう子供ばっかりでチンピラ別動隊っていうのを作ってね、そういう人たちが危険をおかすようになってるのね。ひどいでしょ(笑)。親がない人は危険にさらされてもいいなんて。江戸川乱歩の倫理感なんてのはね、ずっと見ていくとみんなそうなのね。明智小五郎と小林少年の関係も絶対そういう関係でしょ。小林少年みたいな人が年をとるとどうなるかっていうと、明智小五郎に子供のうちからそういうことをしこまれて、それに怪人二十面相なんか追っかけてるから学校の成績なんか当然悪いでしょ。で、どうするかっていうと、晩年は紙芝居屋になって、それで悪い癖だけが残ってて芝居見に来た男の子をトイレにつれて行ったりする(笑)。
小林少年のなれの姿なんて悲惨なもんだと思うな。

竹宮 どういうのか、そういうことってカンでわかるのね。まだ意識してなかった小中学校の頃からそういう趣味のばっかり選んでたと後になってから知ってガクゼン! もうひらき直っちゃった。「ノンニの冒険」「二少年の秘密」「地下の洞穴の冒険」。話は健康冒険小説だけど、かんぐると色っぽいの。本を読む楽しみって、ソウゾウカだと思う。創る方のソウゾウね。SF小説なんか、ほんとに色気ぬきの世界だけど、そこをむりやりかんぐって読むとか。

寺山 この間ニューヨーク行ったら、“ケシゴム”っていう女ばかりのパンクのバンドがあって、ニューヨークのパンクのバンドってすごく安っぽくていいのね。ロンドンみたいに本格的じゃない。

竹宮 ニューヨークはお好きなんですか?

寺山 ニューヨークには幻想があった。八年前までは始終行ったし、友達も沢山いた。八年ぶりで意気込んで行ったら……静かに年をとったって感じ。

竹宮 子供の頃知ってた所なんか、すべてのものがみーんな小さくなってたりしてアリス的気分になることあるわ。

寺山 さびれたんでしょうね…。結局、ベトナム戦争が終って、みんな無気力化して、笑いだけを求めて、テレビでも毎日喜劇ばっかりやってて、みんな愛想よくなって、人を傷つけまいとして、他人にも深く立ち入ってほしくないって。
ニューヨークの名物は、冬になるとマンホールのふたがずれてそこから湯気が立ち上ることなんですよ。昔、「マンハッタンの哀愁」って映画で、一夜限りのつもりでホテルに泊って、男が逃げ出して来て、途中でマンホールのふたから立ち上る湯気を見ているうちに突然考え直して帰って来る、というシーンがあったなあ……。

竹宮 どうして湯気が出てくるんですか?

寺山 なんか、高層ビルのエアコンディショナーの蒸気だからダウンタウンに行くとないんだって。でも、ニューヨークってダウンタウンの活気がないとぜんぜんだめなとこね。すごいと思ったのは、トランジスタラジオブームで、土曜日の夜になると子供からチンピラまで、みんな道路にごろごろ座ってカセットを鳴らしてるの。ロックやソウルをガンガン鳴らして、焼いて売ってるイモ食いながら座ってる。「サタデー・ナイト・フィーバー」がどうして出来たかって、すごくわかる。非行少年とかがトランジスタラジオだけを大切に持って歩いて、あっちこっちで音楽鳴らして、やりきれなくなって道路で踊り出すのね。マンホールのふたの上なんかで。ああいう中からヒーローが出てくるっていうのはわからないわけじゃないけどね。どうして東京であの映画がはやるのかはすごく不思議(笑)。全然そういう基盤がないでしょ。

竹宮  皮フ感覚でわかるんじゃない? ムキムキマンなんてのも同じじゃないかな、はやるってことは、求められたってことで。実感はないけど、欲しがってるんだなーって気がする。

寺山 おじぎの美学ってすごいと思うね。イランに行くでしょ。王様とか王妃に会うでしょ。最初にむこうが軽くおじぎするのね。そうするとこっちもおじぎするじゃない。こっちがおじぎする瞬間、ザーッとフラッシュがたかれて写真が沢山撮られるのね。だから出来上がった写真は必ず、ゲストがおじぎをして王様が胸をはってるのね。王様がおじぎしてる時にシャッターなんか押したら射殺されちゃうんじゃない。

竹宮 帝王学やって腹黒い王様になりたい。「アラビアのロレンス」に出てくる王様みたいの。人情や正義感みたいなめんどくさいもの全部捨てて、独断の人になりたい!



寺山修司VS竹宮恵子2
空の義眼と無限大の本箱について


●ウメボシ、ニボシ、偽(にせ)十字

寺山 いつも同じ質問してるんだけど、もしお月さまをもらったらどうする?

竹宮 そうですね。まりでもつこうかな。お月さまを手まりにして。

寺山 泉鏡花(作家。明治六年生 昭和十四年没)に「草迷宮』ってあるね。お手玉が手まりになっちゃうやつ。

竹宮 あるある。男の子が、死んだ母親の歌っていた手まり唄をたずねて旅する話でしょ?

寺山 あれを映画にしようかと思ってるんだ。

竹宮 何かの雑誌で読んだのですが、アメリカにもアースボールというのがあるんですって。アースボール、つまり“地球玉”というわけ。直径1メートルくらいのボールを数人で、ただかかげて走る遊びとか…。飛んでますね。あたしもこないだ、そんなイラスト描いたんです。

寺山 お月さまは、どのくらいの大きさに描いたの?

竹宮 ドッジボールぐらい。

寺山 なるほど。じゃあ次の質問だ。いちばん遠い場所はどこでしょうか?

竹宮 ここじゃないでしょうか。

寺山 いちばん遠い場所がここか。すごいな、冴えてるね。 次は空の星をいくつまで数えたことがありますか、っていうんです。

竹宮 七つまで数えたわ。

寺山 どうして七つなの?

竹宮 だって北斗七星を数えたことがあるんだもの(笑)。

寺山 ということは、他の星をいっさい数えたことがないってことだ。

竹宮 はい(笑)。

寺山 北斗七星、…あのひしゃくの柄の形をしたやつでしょう。

竹宮 ええ。なぜか、あればっかり目につくんですね。あとはオリオン座が三つ。カシオペアは五つだし。昔、小学生の頃、先生に北極星の見つけ方というのを教わって、それが北斗七星とかカシオペアから距離を計る、というやり方だったんです。

寺山 北斗七星って、どうして柄杓なのかな。柄杓にしかならないのかな、あの形は。

竹宮 何座というほどのものじゃないんでしょ? あれは。

寺山 いや、あれは何座かのなかの何かだよ。ぼくはアンタレスという星を知ってる。それは競馬の馬で同じ名前のがいたからなんだけれども。アンタレスというのは蠍座の、サソリの心臓なんだ。星っていうと、すぐ思い出すのはサン=テクジュペリの『星の王子さま』だけど、あれをパロディにして劇を書いたことがある。それでバオバオ(原文ママ→正しくは「バオバブ」)とか、ウワバミとかうぬぼれの星のほかに、ウメボシとかニボシとかも出てきた。

竹宮 (笑いだす)。

寺山 北斗七星というより南十字星というほうが何となく好きなんだ。

竹宮 見てないから憧れるみたい…。

寺山 ああ、そういうことかもしれない。

竹宮 ヨーロッパじゃ偽(にせ)十字というのがあるんですって。それで航海中の船がよく方向を間違えるんですって。

寺山 ほう、それはおもしろい。星にもにせものがあるなんて。

竹宮 これもやっぱり小学生の頃だけど、『快傑ハリマオ』というテレビ番組があって、それによく南十字星が出てきた。近藤圭子なんて人が歌っていたサブテーマの南十字星の歌がたいそう好きだったので、よく覚えています。いちばん見てみたいですね、南十字星は。

寺山 星は空の義眼だもんね。

竹宮 でも、よく見えるのよ。向こうからも。海外へ行くと人間からも銀河がよく見えるでしょ、マゼラン星雲とか…。

寺山 銀河のこと、天の川という。要するに川なわけよね。むかし、ぼくはラジオドラマでね。天の川の堤防が決壊してねすぐ来てくれと電話をもらった天の川の修理工事の人夫たちが、どうやって行ったらいいのかわからなく迷ってしまうというのを書いたことがあるけど。

竹宮 来たら教えてあげたのに(笑)。


●言語が重いことの証明

寺山 無人島に本を一冊しか持って行けないというとき、何を持って行きますか。

竹宮 そうですね、「広辞苑」がいいわ。

寺山 どうするの、それで。

竹宮 何となくボキャブラリーが不足してるという感じがあって、日本語があやしい(笑)。

寺山 無人島で毎日、字を勉強するわけか。

竹宮 せめて一つの国語ぐらいはマスターしたい。それに読物としてもおもしろいでしょ、あれは。好きなところをパッと開いて読み始めると、一つの言葉からだけでもいろんなことが想像できて無限大の本箱を持って歩いているのと同じね。

寺山 それに、重みもあるしね。おれなんかズボンがシワよってくると、プレスしないで上からまっすぐ垂らすわけね。そのとき、オモシにして上をおさえるのが「広辞苑」なのよ(笑)。だから、言語がいかに重みがあるかということがよくわかる。

竹宮 片手で持てませんよね。投げると人も殺せそう。それに、いろんな言葉の例や活用が書いてあるでしょ。ハッとするようなのがあるんです。発展性があるんですね。オランダ語でテーブルのことをターフルというのだとか、ラベイカとは中世のバイオリンのことであるとか、サフィールは サファイアのことだとか……音声的に素敵なものを集めるだけでも楽しくなってしまう。SF描くときも、いろいろと「広辞苑」 ひっくり返してみるんです。

寺山 登場人物に名前をつけるときにも「広辞苑」は役立つね。いま天井桟敷(寺山修司氏主宰の演劇実験室)の『奴婢訓』という新作の台本を書いてるんだけど、下女とか下男とか小間使いとか(主人がいない) 大きな邸に迷いこんできた一人の男の話なんだ。話自体は割と残酷なところもあるんでね、ソフトな部分も必要だと思って、訪ねてくるやつをオッペルという名にしたわけね。

竹宮 宮沢賢治ですね。

寺山 そう、それで賢治の作品に出てくる人の名を全部使うことを考えたわけです。そこで、彼を追っかけてくる刑事をジョバンニとしたのね。銀河鉄道の鉄道公安官、またの名は刑事ジョバンニ(笑)。それで宮沢賢治を読み返してゆくとね、人の名前のつけ方というのに興味が出てきた。クーボ大博士とかアーサイとかいるわけ。ところがよく考えてみると、クーボは久保、アーサイは浅井さん。ごくありふれた名でもカタカナにして、一部分を伸ばしたり繰り返したりすると、たちまち全然違ったメルヘンの感じになるということがわかったのね。

竹宮 ホントにそうですね、言われてみれば。場所や植物の名前なんかも、みんな実際はあるものホンの少しずらした感じで。そう考えると、宮沢賢治の話というのは、常に現実世界と重なった異次元みたいなところがありそうですね。最も近くて遠い場所というのは、そんな所かも…。


●夢のリバイバル

寺山 次の質問です。 キスをするとき目をつぶるのは、なぜでしょう?

竹宮 自分が酔うためかな。

寺山 目をつぶると酔えるんですか。

竹宮 多分そうでしょう、女性はとくに。そういうことも、相手へのサービスというよりは自分のために。だから。

寺山 じゃ、お酒飲むときも目つぶるといいな。

竹宮 何にせよ、自分に都合のいいようにするには、そうしなくちゃ。

寺山 相手が誰でもかまわなくするために、ということはないかしらね。

竹宮 あるかもしれませんね(笑)。それと、現実は見ないで、充分酔ったほうが相手にも思いやりがあったりして、なんて…。 心づもりはともかく、キスや抱擁は楽しいものだと思います。楽しいことは100パーセント楽しむのが一番いいんです。

寺山 ネコと話ができるとしたら、何といって挨拶しますか、最初に。

竹宮「夜中に電話をかけてよこさないで」って。うちのネコは、私が仕事部屋のほうに行っちゃうと、一人ぼっちの夜を過ごしているわけなんです。それで時々、思い出して、“かわいそうだな。 電話してあげようかしら”なんて話が仕事仲間のあいだで出るのです。そうすると決まって、“大丈夫よ、きっとあのネコ、誰かと長電話してるに決まっている”なんて結論に落ち着いちゃうの。だから留守の間、何をして過ごすのか、本当は聞いてみたいんです。

寺山  ネコ語でそれを言うわけね。

編集 眠る前に夢の予約ができるとしたら、どういう夢を予約しますか。

竹宮 前にみた夢のリバイバルを。

寺山 名作リバイバルね。最近、リバイバルしたかった名作ありますか。

竹宮 あるんです。最初も最後もなくて、すごくいい場面を見たから、今度は全部を見たいんです。

寺山 予告編を見たから、本編を見たいっていうわけね。

編集 生まれて、最初に記憶した人の名前、覚えていますか。

竹宮 名前ですか印象に残ってるのは、おばあさん。

寺山 何というの?

竹宮 ツネヲっていうんです。

寺山 えっ?

竹宮 ツネヲっていうんです。

寺山 女なのに?

竹宮 ええ。

寺山 女で、どうしてツネヲだなんて(笑)。

竹宮 さあ、むかしの人はヘンな名が多くて。カタカナでツネヲというんです。

寺山 それはきっと男の子が欲しかったときに生まれたんだ。

竹宮 おばあさんってカタカナが多いですよね。

寺山 東北のほうじゃ、スエとかトメとか多いね。子供ができすぎてこれで終りにしようというときにおまじないみたいにつける。

竹宮 そういえばトメオちゃんという男の子がいました。考えてみるとかわいそう(笑)。


●カタツムリの運動会

寺山 十年前の自分に会うことができたら、何について話をしますか。

竹宮 ひたすら慰めます。

寺山 何と言って慰めるんですか。

竹宮 そうですね。混沌としてましたから。

寺山 失意のどん底にあったとか、そういう状態だった?

竹宮 具体的にそういうことではないですけど、多感な時期だったから。今日、躁状態かと思うと明日は鬱でしょう。何か、とてつもなく大きな、自分だけでは解決できないような問題を抱えこんでジタバタしてたみたい。
そんなことに、ようやく整理がついたのが、二十歳頃。そうすると、人間それ自体にかかわってなくてもいいんだ、という自信みたいのができて、やっと漫画に専念する気になった。あとはもうガムシャラ。大学なんてのは、学問しに行くところじゃないですね。そういう解決をつけるための、執行猶予の場所みたい。だから、その問題を卒業したら、さっさと退学してしまいました。

寺山 では、次の質問。 生きたカタツムリを百匹もらったらどうしますか。

竹宮 運動会をさせます(笑)。

寺山 賞金を出して?

竹宮 一番になったのはエスカルゴにして食べちゃう(笑)。

寺山 映画のラヴ・シーンで印象に残ってるのは?

竹宮 そうですね。らしくないのが好きなんです。『風と共に去りぬ』で夢を見てるところがあったでしょ、スカーレットが。

寺山 そんなのあったっけ。覚えてない。

竹宮 終りのほうですよ。何かを追い求めているんだけど、どうしてもつかめない。それをバトラーが慰める場面です。ああいう気の強い女性が、子供みたいに泣いているのを慰めるっていい。だけどバトラーはきっと慰めたっていう自信が持てなかったんじゃないかな。

寺山 今まで見た映画のベストスリーというとどんなところになるのかな?

竹宮 まず、『野いちご』。ベストスリーというと困る。順番がつけられないような映画が好きだから。『七人の侍』なんか、ずっと後になってテレビで観たんですけど、完璧な漫画だと思った。黒沢さんには失礼かもしれないけれど。 活劇のおもしろさで…。

寺山 あれは劇画的だよね。


●鬼のいないかくれんぼ

寺山 ところで、お風呂に入ったりして、思わず口をついて出てくる歌なんてある?

竹宮 あまり歌わないんです。お風呂場で歌っても、救いようのないオンチで…。というより声に出しちゃうとイメージが、ガラガラとくずれるから。心の中では万能の歌手でいられる。

寺山 ウィーン少年合唱団とか木の十字架とか、好きなんでしょ。それは観るのが好きなの? 聴くのが好きなの?

竹宮 観るのもいいけれど、聴くほうが好きですね。少年の高い声は、なにか哀しい感じがあって宇宙的です。

寺山 一回ぐらいレストランでも借り切ってさ、ウィーンから呼んで、メニューに合わせて歌ってもらって、食事が終ったら「どうもありがとう」ってのをやってみたらどうかしらね。四畳半で味噌汁すすりながらでもいいけど(笑)。……

編集 いままで何回ドアを締めた感じがありますか。

竹宮 あまり締めた覚えがない。どこへ行くという意識がないもんだから。

寺山 子供のとき、かくれんぼなんかやった?

竹宮 ええ、しました。 井戸にかくれたことあります。

寺山 井戸に?

竹宮 涸れた井戸ですけど。

寺山 かくれるほうと鬼と、どっちが好き?

竹宮 鬼が好きです。みんなをかくれさせておいて、そのまま帰っちゃったりして……。 かくれるほうは、見つけられないと困っちゃう(笑)。

寺山 いま忘れてしまいたいことって、何かありますか。

竹宮 忘れっぽいから(笑)。

寺山 ことしの何か大きな計画は?

竹宮 アメリカへ行きたいと思います。西でも東でも、どちらでもいいです、はじめてですから。

寺山 仕事の計画は?

竹宮 計画っていうんじゃないですけどね、自作の英語版をつくってみたいなと思ってるの。

寺山 コミックは国際性があるから、わかりいいよね。でも『風と木の詩』ってタイトルは、なかなかむずかしい。タイトルきいただけでアメリカ人は林野庁営林署のCMソングだと思うぞ。

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