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【竹宮恵子:拝啓 中島梓様】
ぱふ1982年8-9号「特集竹宮恵子part2」(32歳)

ぱふ1982年8-9号「特集竹宮恵子part2」
発行日:1982年08月01日
出版社:雑草社


資料提供
https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/gcomic/163189...


註【拝啓 中島梓様】は【正攻法の人:中島梓/聞き手:増山のりえ←リンク】に対する回答(弁明)として書かれたもの


拝啓 中島梓様
(画像2枚に続いてテキスト抽出あり)




拝啓 中島梓様

ご気嫌よう、(会う機会がなかなかありませんな)。
エンエン三時間の長インタビューに答えて下さってありがとう。面白かったです!
ただあれは...私の10年来の片腕(ブレーン)増山がインタビュアーとしては...失格であったのではないかと思います。あまりに私と近いため、中島さんとお友達であるために、親しく意見交換などしすぎて、冷静客観的インタビュアーの立場を忘れている感があるのですね。(中島さんが彼女をご指名になったのでしたが)中島さんは、私に近くない故の客観性で、イロイロと面白いことを言ってくれるし、増山は近さ枚のスッパ抜き(?)で、対抗(?)する。それを聞いてると、何やら私も参加して、「竹宮恵子」なる人物について、意見など言ってみたくなりました。インタビュー記事の後で、話されている当の本人が、感想を述べる、などというのも「ぱふ」ならでは、と思いまして...。
まず感心したのは、中島さんが少年愛を書く理由に自分のコンプレックスをあげていることなのですね。その心の推移というのは、とてもよくわかるのです。何故かというと増山の発想法(?)によく似ているからで、この部分では、中島さんはむしろ、増山に近い人なのかな、と思ってしまった。
実をいうと、私は、増山と出会って大泉サロンの人達と交際するようになるまで、自分の中にコンプレックスを持ったことがなかったのです。それは足の形が悪いとか、顔がブスだとか言う一般的な劣等意識とは違うもので、作家として己の存在意味を問うような類のもの。私は何ていうか田舎育ちのあつかましさで、「だって存在してるもん、何を疑うことがあろうかい」と思ってたわけなのですね(考える とコワイ。やっぱし20才まで人間じゃなかったのだ)。で大泉の友人たちの豊かな作家性の中で、私はコンプレックスのないことに、コンプレックスを抱いていたのです。
私が何故「風と木ー」を描いたか、というと、「コンプレックスを持った作家になりたかったから」なのですね。可もなく不可もなくの漫画家だった私が、「作家らしく」なりたいために大泉で考えに考えた答えがこれ、という訳です。突然ポッと生まれた「風木」に私はワラにもすがる気持ちで取りついて、そして10年かけて空白を埋め、答えを出してきた。「風木」は私自身への私のレクチュアであり、レポートなのです。
だから「竹宮恵子はナルシストである」という部分も否定しません。ナルシストじゃないとこういうことはしないものね。恋人を持たないわけも「自分の中を探ってるほうが面白いから」ということになるのでしょう。でもホントだから、構わない。ただ、増山との出会いが私に「自分は作家なのか否か」というショーゲキの問題を持たらしたように、自分をつき動かす何かは、やっぱり欲しいのね。今でも私としては待ってるんです、私の全てをひっくり返す衝撃の出会いを。
友だちをつくらない人だ、と増山が私のことを言ってるけれど、これは違う。ガラス張りだけど近寄れないっていう中島さんの意見も、私は違うと思うのね。私って「愛想がない」とか「とっつきにくい」とか「可愛げがない」なんて、しょっちゅう明からさまに言われる型(タイプ)だけど、ほんとは「なつこい」のですぞ。ははは。増山も知らない私のヒミツ。
主人が関心を示してくれるまで、ジッと待ってる小犬の型(タイプ)です。なんていうと、ぶりっ子だけど、ほんとなのよ。私は自分に対して何の先入観も持たずに来るフッーの人には、全く壁を持ちません。相手が「竹宮恵子」像をつくって来るから、私はその「竹宮恵子」になろうと努力しちゃうのね。それはあなたも作家でありタレント(本当のエーゴの意味での)であるから解ると思うけど...。私のガラスの壁は、飛び超えるものでもなければ、破る類のるのでもない、実は侵透圧(?)による透過性のものなのです。中島さんが私にとっつきにくいものを感じるのは、あなた自身、作家すぎるからなんだよね。こうやってお手紙したり、会ったりする機会がこれからもあれば、どっかでお互いの侵透圧が一致して、ガラスの壁が溶け突然ワカっちゃう時がくる。私はむしろ、そんな神話(とは実は思ってないけれども)を信じる性質なのです。そういうのって、やっぱカッコ良すぎる?ダメかなァ......でも、やってみようよ!
ーーなんてね。これだから少女漫画家は精神的つながりだけを追求する、なんて言われるんだ。でも、私、あなたに言われてみて、ホント少女マンガって処女的だなって思ってしまった。私だって中島さん、ホントはリアルな男であるマックス・ブロウが好きなのよ。でも、あんな毛むくじゃらばっかしが本音で行動したら、これはもう少女マンガではない!結局、読者の女の子たちが精神的にも肉体的にも処女的だから、描くほうも処女的(バージン)にならざるを得ない。 我ワレは、別に現実と幻想のギャップに落ちてる訳じゃない。生活も「セーカツ」程度には持ってるのよ。ただ、処女的(バージン)読者相手に処女的(バージン)な話描いてるから、精神的処女癖がついちゃう。で、相手(結婚の)が見つかりにくいってことはあるかも知れない。まァ、これはなかなか悲劇だけどね。私はオロカな男大好きよ。立派な男ってキライ。つまり、作品世界の男と現実の男とは、全く問題が別なのです。これも少女マンガの特徴かな。読者諸君は、そこんとこ、 よく理解して読んで欲しい、なんて勝手かしら...。そもそも話(ストーリィ)の成りゆきや、キャラクターは絶対にリアルじゃない。リアルになったらその時こそ、女性版ビッグコミックの生まれる時だと思う。まだまだね...。いつかは描いてみたいと思うけど。その点小説の世界は、現実を十分に含んでいるから広い。これは読者層がつくるものであって、作者のほうでつくる規制じゃないのです。少女マンガは狭い。少年マンガもまだまだ狭い。いかに漫画が評価されるようになったとはいえ、この点において絶対的不利を感じております。どこかにスルリと睨ける接点があるとは思うけど、これも侵透性の関係かもしれないーー時期待ちですな。

最後に嬉しかったのは、私が正攻法の作家である、と中島さんが指摘してくださったこと。私のデビューしてきた時代は、正攻法の嫌われる時代、マイナーという訳でないにしても、マニア的評価が力を持っている時代だったのね。だから、十把ひとからげに扱われたくなければ、ある程度特殊な部分を見せなければ評価されなかった。ふり返ると、そのためにずいぶん無駄なツッパリをして来たと思う。おまけに私はツッパリながらツッパってる自分を、芝居してると感じるものだから不幸でしたよ。「化身の人」だなんていうと素晴らしくキレイだけど、何のことはない保身本能。ご指摘どおり、逃げの一手。でも、いつもこの逃げを、一時的なものだと自分に言いきかせてる。いつかは日の当る所に戻ってきて、ハッキリ自分の主張をするんだと思いながら逃げる。負の世界に身をおくのがイヤだというのは、当たってるわね。うん、イヤというより、いけないと感じてるわけ。
こういう私が描く「風木」というのは、だから当然、裏街道を行く本当の少年愛的世界じゃない。増山とか、中島さんの持ってる(持ってた、と言うべきなのかな)世界こそ、ホンモノ(?)なのかもしれない。でも私は増山からレクチュアされて、やや、それをのぞいてはいると思ってる。とあるJUNE的ファンから手紙がきて「最近の風木は何だ、ちっとも少年愛的じゃない、愛の大河ドラマなんて本当に描く気だったのか」と言われたのね。今となっては、私は、(愛の大河ドラマだとはとても恥ずかしくて言えないけど)「少年愛なんてまっかなウソで、人間愛ドラマですよ」ぐらいは言いたい。いろんな所でよくインタビューされたけど、ホントに少年愛作家だって言われることには傷ついてるのです。
負の世界に身をおくことがイケないと言ったけれども、これは「人間であることをどんな時にもやめるな」という意味においてです。逃げの一手は、逃げることによって勝つためです。攻撃だけが勝つ方法じゃないと、私は何故か子供の時から信条として持ってたみたい。ひきょうでも何でも、今はじっとだまっていて、あとで皆の知らないうちに実行しよう、と、そういう性質なのね。言ったって解ってくれないから身につけた生きのこり方。Aの意見にもBの流れにも染まりたくない時、AでもBでもないまま時を経るのは、実はとてもシンドイのよね。でもそうしないと染まっちゃうから、竹馬はいて歩いたわけ。流れの中に大石を投じて流れを変えることは絶対しない。革命しない、というのは、ホントびったりな言い方でした。でも生きのこるということは、まだ自分の意見を言う機会を残すってことですよね。時代はいつか変化していくもの、常に変化していたいもの。だから、私は、大きなせき止めはしないで、いつのまにか変化していた、というふうに変えたい。時間もかかるし美しく花咲くようなものじゃないけどね...。正攻法って言葉は、まっとうな道のようだけど、イヤハヤ違うのよ。満足するのは自分だけ、人は後指さすようなシロモノなのです。でも、あなたのご指摘は、やっぱり嬉しかった。あなたとの間の侵透圧がやや近くなったと感じます。
ーー最後のほう読み返すと家康のようですなァ。好みでいえば信長なんだけど仕方ないわね。江川クンも好きです。
ーー敬具
 竹宮恵子・書

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