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【竹宮恵子インタビュー:「少年愛」を語る】

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竹宮恵子 マンガの魅力
マンガの魅力・漫画館シリーズ11
南久美子
発行日:1978年12月01日
発行所:清山社




「竹宮恵子 マンガの魅力」101-148ページ
(図版に続いてテキスト抽出あり)









こぼればなし
★新居のじゅうたんと壁がピンク!
『ピンクがお好きなのですか?』という問いに『これは増山さんの趣味。私はブルーが好きなんです』とのこと。
★最近、パイプカット?手術を受けたプシ君…。しぐさがなんとなく女性的になってきたとか…。
★仕事場が、せまくなったので6月1日にお引越し。今度は2DK(マンション)を2つ借りて、1つは仕事場、もう1つは休憩室兼物置とか…。
★プシ君のトイレは、玄関にございました。
★竹宮さんのお父さまは、家具屋さんにお勤め。お母さまは、小柄で色白
妹さんは、今やりっぱな奥サマ。竹宮さんもりっぱな独身。アシストさんたちは、今、ダイヤゲームに熱中しています。



















竹宮恵子インタビュー
「少年愛」を語る


■インタビューによせて

東京・杉並区上井草の駅から歩いて七、八分の、静かな住宅地にある三階建ての白い洋館……、売り家の宣伝ではありません! そこが竹宮さんの新居なのです。ドアをあけると、彼女の愛猫プシ君が、正真正銘の“ネコなで声”で、私たちを出迎えてくれました。当の竹宮さんは、二つ駅向こうの下井草にある仕事場で制作中とのこと……。光がいっぱい差し込むダイニングルームで、プシ君とたわむれながら、彼女の帰宅を待つというのも、なかなかのんびり
して、気分のいいもの……。
そうこうしているうちに、とても疲れた様子の竹宮さんが、忙しいスケジュールのあい間をぬって帰ってきて下さいました。
いよいよインタビューの開始です。
本日の睡眠時間も、二時間だけとのこと。そんな彼女に、たくさんの質問を浴びせかけるのは申しわけないナーと思いながらも、心を鬼にして、お話を聞きあさってきました。



■想い出……

 ふるさとは竹宮さんにとってどのような存在ですか。

竹宮 そうですねえ……私、二十歳ごろに出てきたんですけど、それまでは、特別いいところでも悪いところでもなく、ずっとそこに住むものだと思っていたんです。東京に出てくるなんてこと考えてもいなかったし、かなりベッタリとくっついて育ってましたね。
徳島の名物といったら阿波踊りくらいしかないんですけど、盆踊りのころになると、東京でも、あちこちで阿波踊りをやってるでしょう。それを聞くとすごーく懐しくなって、突然帰りたくなることがあるんですね。 

 竹宮さんは、十四歳の少年を中心に描いていらっしゃるようですけど、竹宮さん自身の十四歳のころ、何に魅力を感じていらっしゃいましたか。

竹宮 何してたのかなあ……。まだ、まんがにもそんなに染まってはいなかったですね。染まりかけてたころかな?
悪い男の人がおりましてね(笑い)。もう結婚して子どももいるくらいの人なんですけど、ご用聞きに来るクリーニング屋さんているでしょ。市内から、ちょっと郊外にあった私のうちまでご用聞きに来ていたクリーニング屋さんが、たまったまんが本をみんな持ってきてくれてたんですよ。「少年マガジン」とか、「サンデー」とか「キング」とかを、三ヵ月にいっぺんくらいたくさん積んでね。それを、ふとんに寄りかかって、延々と読んでたんです、二日間ぐらいで。

 少年雑誌ばかりですか。

竹宮 そうです。

 竹宮まんがにも、その影響が?

竹宮 あるんじゃないかと思います。一番大事なときにそういうものばかり見て過ごしたから、全然、女性的な感じじゃなくなってしまったんですね。その人に、ボーリングに連れていってもらったり、スケートに連れていってもらったり、よけいなことをいっぱい教えてもらったんです。そういうことが一番思い出深いといえば思い出深いですね。
あと、高校にあがる前に父親が職を変えちゃったものですから、しばし失業期間があったんです。それで奨学金をもらって学校に行くことを覚えたんですね。覚えたというとおかしいけど、そういうことに慣れちゃったわけです。大学もそうなんですね。だから、そのへんから、親には全然面倒をかけてないんです。何となく独立独歩のところがありましたね。

 お父様の失業は、竹宮さんに大きな影響を及ぼしましたか?

竹宮 そうですね。やっぱり、影響してるんじゃないでしょうか。自分の力で何かしようと思ったのはそのころだし、そのへんから、父親のスネをかじらずに何かやることを覚えはじめましたからね。

 ご両親に対する気持ちを……。

竹宮 私、父に関してはすごく親しみを持って付き合ってきたんですね。中学校のころ、道徳の時間というのがあって、思春期の少女は父親とは付き合わなくなるものだ、っていわれたんです。どうしてかということを追求する前に、私はそうならないでいようと思いましたね。
それに、いつも「お前が男だったらなあ」と言われてましたので、男だったら政治の話も聞くんだろうなと思いながら、わからないのに無理して聞いていましたね。日曜日になると、父親がゴロ寝している横に寝転がって、テレビを見ながら、ああだこうだという話をしてました。

 じゃ、「少年になりたかった」というのは、小さいころから「お前が男だったら」と言われ続けていたことによるのかもしれませんね。

竹宮 ええ、そういうのが潜在的にあるのかもしれません。

 中学のころから思春期にかけて読んだ本の中で、一番印象に残ってるのはどんな本でしょう。

竹宮 中学時代に読んだ岩波少年少女文庫でしょうか。

 お母さまはまんがを買って下さらなかったそうですね。

竹宮 文学全集を買って与えておけば間違いないだろうと思ってたんでしょうね、毎月一冊ずつくるんです。読むのは嫌いじゃなかったらしくて、くると、わりとまんべんなく読んでたんですね。だから、全巻五十冊、大体読んでるんです。

 その頃の感動、印象が作品にも現われているようですが……。

竹宮 ええ、そう思います。

 幼児期、思春期、そして現在にかけて、性格の変化はありましたか。

竹宮 小さいときはあいそがよくて、ちょっとはにかんで、でもあいそがいいという子どもがいるでしょう、いい子いい子という感じの。そういう子どもだったらしいんですけど、小学校ぐらいからどっちかというと、一歩退いてというか、あんまり他人の前には出たがらないタイプになっていって、目立たない存在でしたね。成績も普通だった感じですね。
ときどき、父親が出張で大阪に行くとき、連れてってあげるから先生に許可をもらってきなさい、と言われるんです。そういうときって、教育上いいからとか、見学旅行だからとか、いろいろ説得するでしょう。だけど、私はそういうふうには言わないで、いきなり大阪に行くから休ませて下さい、って言うんです。そういうところはすごく抜けてましたね。
中学になって田舎のほうに引っ越したんですが、席次表がつくようになったんです。そしたら、最初からいきなり十番以内に入って、次に一番になったんです。それで突然変わったんですね、そういうことがおもしろくなったんです。

 トップに立つことがですか?

竹宮 トップに立つことというんじゃなくて、成績がいいと親が喜ぶでしょう。それがおもしろかったんです。

 首位の座は、卒業するまで確保できました?

竹宮 いえ、しばらくズッコケて、そのあとは三十何番になったんです。よくなると安心しちゃって、ノホホンとしちゃうんでしょうね。

 そういう、トップにのし上りたいという意欲は、いまでも、お持ちですか?

竹宮 そうですね。やっぱり話題になるのはおもしろいという感じはありますね。テストが返ってくるとき、百点満点の子の名前を呼ぶでしょう。そういうときの快感みたいなものはありますね。

 学生時代はモテましたか?

竹宮 そうですねえ……別に、モテたほうでもなかったんじゃないかと思いますけど。男友だちをたくさん持って、楽しそうにやるというほうじゃなかったですね。ちゃんとお付き合いしてる子はいましたけど。

 女の友だちのほうが多かったんでしょうか?

竹宮 いえ、友だちはあんまり多くなかったです。もうまんがを描き始めてたんですね。中学校のころから、学校でポケッと考えることを何とか絵にしたいと思って、わりと早々に帰ってきちゃってたんです。みんなはクラブをやったり、何となくグズグズしてるでしょう。私はサッサと帰っちゃうものだから、友だち関係もそんなに深くなかったですね。
だから、学校に行くときに一緒に行く友だちと、学校にいってからの親友と、帰りは行くときの人と一緒でしょう。学校だけなんですね。家に帰ったらひたすらまんがを描いてましたから。

 もし過去に戻れるとしたら、いつごろに戻ってみたいですか。

竹宮 やっぱり、楽しかったのは高校時代かなあ……。高校時代に返りたいですね。

 大学生時代に七〇年安保を迎えられましたね。竹宮さん自身、何か影響を受けましたか?

竹宮 ずいぶん受けてるんじゃないでしょうか。大学の一、二年って、性格が変わる人が多いと思うんですけど、私もそうだったですね。
最初、美術科に入ったんですけど、五人しかいなくて、しかも女子は私一人だったんです。その中の一人は民青系で、私が親しくつき合ってた人が三派系、もう一人はみんなからアナーキストといわれてたんですね。つまり、美術科の中がゴッチャだったんです。私はその中で、あっちではこう言い、こっちではこう言う、というふうに泳いで聞いてました。どこにも所属しないでね。



■出会い……

 まんが家の道を選んだために失ったものがありますか? あるいは心残りなものがあれば……。

竹宮 そうですね、やっぱりごく普通の女の子の楽しみはほとんど捨てちゃったと思うし、男の子と付き合うこともなくなったと思いますね。男の子と付き合うというのは全然違うんですね、男の子の前にいると非常に女らしくなる自分を感じるんです。ですから、そういう部分はずいぶん捨てちゃってるでしょうね。

 捨てたのか、それともちょっとおいてあるのか……?

竹宮 もうほとんど捨てましたね。いまさらという感じがありますから……(笑い)。

 まんが家という職業を自分の天職だと思われますか?

竹宮 プロになる前はそう思ってましたね。いまは、はたしてなりたかったんだろうかという気持がいつもついてまわって、最終的に行きつくところまで行きつかないとわからないんじゃないでしょうか。

 じゃ、もし行きつく前に、まんがが絶滅して、発表する場所がなくなったとしたらどうなさいますか?

竹宮 私の場合、まんがだけじゃないんですね。自分の中に培ってきたものを、何でもいいから形に出したいと思ってるわけで、他人と話すだけでも十分だという気がするんです。相手は一人でもいいんです。だから、不自由は感じないんじゃないでしょうか。

 竹宮まんがフ の年齢層は?

竹宮 一応、高校生が一番多いんですけど、中学生くらいから、上は三十、四十歳ぐらいまでですね。

 竹宮さんのメッセージが一番伝わりやすい年齢というと?

竹宮 やっぱり高校生じゃないかと思うんです、大学生になっちゃうと、もうほとんど自分なりの考え方が出来てる人が多いから、アドバイス程度にしかならないですね。高校生だと、ショックになるんですね。引き金になるというのがすごく楽しいんです。

 石森章太郎氏についてひと言。

竹宮 一番近い存在ですね。

 彼のどういうところに魅かれますか?

竹宮 魅かれたところは、石森先生自身が自覚してるかどうかわからないようなところなんですね。香り立つというか、そういう感じでにじみ出てくる良さなんです。ご本人は、多分意識してないんじゃないでしょうか。そういうところが好きなんです。

 石森さんの師は、手塚治虫さんですが、竹宮さんから見た手塚まんがについてお話し下さい。

竹宮 読んだのが、石森先生のが最初で、そのあとに手塚先生の読んで、一番感動したものは何かといえば「火の鳥」なんですね。ショックを受ける時期がおそかったんですね。それだけで分かれちゃったようなところがあるんです。
それと、何しろ手塚先生というのは近寄りがたい人でしょう、深く話し合える人じゃないんですね。ものすごく忙しいし、神様という感じ。ところが、石森先生はすごく気さくな人で、私が行ってお会いしたときも、先生というより、どこかのおにいちゃんという感じで、「うちにプールがあるから泳ぎにいらっしゃい」と言って下さったり、買いものかごをぶらさげて出かけたりということのできる人なんですね。それですごく親しみを感じて……。

 別の世界から竹宮さんを応援している寺山修二さんについてはいかがですか?

竹宮 寺山さんと、それから光瀬竜さんなんかもそうですけど、ものすごく少年っぽいんですね。まだ子どもの部分が残ってて夢を追っかけてるようなところがあるんです。この前、遠藤周作さんと対談したんですけど、遠藤さんはすごくおとなだったんでびっくりしちゃったんですね。ずいぶん違うなって思って、北杜夫さんも、やっぱり少年の感じでしょう。

 つまり、少年っぽさに魅かれたということですね?!

竹宮 そういうことはありますね。自分にもある共通項みたいな感じで……。

 竹宮さんのお友だちで、同居していらしたことのある荻尾望都さんについてはいかがですか。

竹宮 知り合ったのが作品からなんですね。徳島にいるころ読んだ作品にすごくショックを受けたんです。最初、この作品は男だろう、男だったら結婚したいな、と思ったんですね。それほど好きだったし、自分と共通する部分があるなって感じて、何とか会えないものだろうかと思ったんです。
そしたら、講談社の仕事で上京したとき、上京してますよ、という話を聞かされたんですね。それで、これは何かの運命だ、会ってみようかなということで、一晩、アシスタントという形で来てもらったんです。話ばっかりしました。そのときに、まんがのおもしろさを自分と同じように知ってる人だなって感じて、私のほうから一緒に住みましょう、ってもちかけたんです。安いほうがいいですしね(笑い)。でも、まわりの人からずいぶん反対されました。

 絵が似てくるからでしょうか。

竹宮 それもあるし、女の子二人でけんかするんじゃないか、って思ったんじゃないですか。案の定、似てきちゃって、読者に「どっちかわからなくなっちゃった」っていわれた時期があるんです。それで、これではいけないと思って、結局、別れて住むようになったんです。

 じゃ、けんか別れではなく、方向の違いみたいなもので?

竹宮 そうですねえ。 求めるところが大いに違ってきたということもったし……。

 増山さん(マネジャー)が、少年を描くことをお勧めになったとか、いろいろな意味で、アドバイザーとしての彼女の存在は大きいと思うんですけど、彼女についてひと言。

竹宮 彼女は、大泉サロンで、みんながゴッドマザーといってたんですね。それほど肝ったまが大きいということじゃなくて、何となく世話をすることが好きで、私と彼女が一緒に住んでいるとほかのまんが家まで集まり始めて、自由の天地みたいな雰囲気があったんですね。結局、かなめは彼女なんです。彼女自身のファンというか、彼女の人間につられて集まってくるんですね。荻尾さんにとっても私にとっても、アドバイザーだったと思うんです。

「変奏曲」はどういう意味を込めて彼女に送られたんですか?

竹宮 同時につくってきたようなところもあるから、そういう意味で……。



■現在……

 ここ数年来、変わらない方針といったものがあれば……?!

竹宮 ここ数年で思ったことは、成功とか不成功とか、才能のあるなしというのはすごくつまらないことで、運不運もあることだし、あんまり考えないで精いっぱいやろう、そのときそのときの転がりようを楽しむしかないな、ということですね。ですから、どうなってもいいから思い切ってやりたいなと思ってるんです。

 いままでで、一番苦労して出来上がったものというとどの作品でしょう。

竹宮 やっぱり「風と木の詩」が苦労してるんじゃないでしょうか。とにかく、編集に載っけてもらうことを説得するために磨かなければならないものといったら、それしかなかったんですから。したがって、愛着もあるし、訴えかけもしつこくやったんですね。ですから、乗ってきてる人に対して裏切ることができないというところがあるでしょう。そのあとが大変で、結局、最後まで大変になっちゃうんじゃないかなと思うんです。

 竹宮さんの作品をアニメ化するとしたら、最初にどの作品を選ばれますか?

竹宮 最初、「空がすき」をやりたいと思ってたんです、ミュージカルだということで、何しろ音が出ないものですからね。だけどそれ以後、「ブラボー・ラ・ネッシー」というドタバタSFですね、ああいうのもやってみたいなと思ってるんです。怪獣なんかは、たとえ特撮で撮っても気持ち悪いものでしょう。その点、絵ならかわいいんじゃないかって思ってね。

「風と木の詩」を映画化するとしたら、ジルベールとセルジュにどの男優を選びますか?

竹宮 それを言われると、悩んじゃうんです(笑い)。遠藤周作さんが、「あれはとにかく人間じゃないから」っていうんですよ。

 じゃ、まったく考えられませんか?

竹宮 ええ、考えてないですね。アニメでもやれないんじゃないかと思うんです。

 つまり、“まんが”という形が一番適していると?

竹宮 ええ。動きでも、ほんとに動いてるものにこだわるとすごくやりづらいんですね。まんがだからこそというところがあるんで、せいぜいそういうものにしたいと思ってるんです。

 思想のあるまんがをつくろう、と決心なさってたでしょう。いまもその考えは変わりませんか?

竹宮 ええ。大学時代に、「まんがを描くんだったら『カムイ伝』みたいなのを描け」と言われたんですね。そのときは、なるほど思想を絵に描いてるという気はしたんですけど、まんが家になってから、あれをためつすがめつ読んでみると、あの人は思想を絵に描こうと思ったのではないんじゃないか、ただ世にある現象を絵にしていったら思想になってしまったのではないか、と思ったんです。私も、それを忘れないでやろうと思ってるんです。思想、思想で押さないで、現象から入っていこうと。

 これまでに、何度ぐらいスランプを経験されました?

竹宮 私は一回きりだと思ってるんです。大泉時代は、いろいろ悩むことがあって、描けないこともありましたけど、みんなで「スランプなんてことばは巨匠が使うことばだから、巨匠になってから使おう」ということを合いことばにしてたんですね。最初のころの小さいスランプは悩みのうちにも入らないって思ってたから、私もそういうころのものは数えないんです。

 じゃ、またスランプがやって来たら、切り抜けられますか。

竹宮 それが怖いんですよねえ。でも、やめられないんじゃないかと思うんですよ。もう結婚するのもいい加減あきらめかけているし(笑い)、暮らしていくには乗り越えるしかないんじゃないでしょうか。

 心霊ものとか、怪奇ものが苦手ということですけれども、どうしてですか?

竹宮 大体、そういう超現象的なものを見たことなんですね。感じたこともないし、それ自体を信じることができないんです。変なことがあっても、自分ですべて説明つけちゃうんですね。

 でも、SFなんかにも、説明できない部分が、おおいにあるとおもうんですけれど……。

竹宮 むしろ、SFは説明がつけやすいというか、設定を全部つくることができるんだから、らくなんですよ。作者が「こうだ」と言ってしまったら、それしかないというところがあるでしょう。

 今、活躍している後輩の少女まんが家について……。

竹宮 すごく変ってきたなと思うのは、私より五年ぐらいあとの人たちは、全部シラけちゃってるんですね。安保の時代を過ぎたあと、シラけた時代の人たちというのは、何でも軽くしか見られないというか、どんなことでもちょっとシニカルに笑ってすごせばいいと思ってるんですね。だから、声を大にして説得したいようなことが通じないんです。そういう重要なことを、サラッと、笑いながら言えるんですね。
私なんかは、重要なことになると、どうしてもまじめに考えちゃうんで、そういうことをサラッと見られる若いまんが家を、うらやましいなと思うことがあるんですよ。

 竹宮さんは、じっくり考え込んで、ストーリーを作っていくのですか?

竹宮 そうですね。つくればつくるほどおもしろいですからね。話をうまくつくれたときは、くだらないエピソードでも全部うまく曲がってきちゃうんです。こっちでちょっとお茶わんを落っことしただけのことでも、すごい重要なことになってこっちで現れてくるというふうに、設定のおもしろさが交錯してくると、うまくいったときはものすごくよくなるんですね。そういう楽しさがあるんです。だから、お茶わんを落っことすということに入ってるいろんなイマジネーションが感じられるときって、すごくおもしろいですね。



■少年考・SF考

 少年の一番好きなところを三つ挙げて下さい。

竹宮 そうですねえ……、やっぱり跳ぶという感じですね。思想的にもそうですけど、上にジャンプするという跳び方がいいですね。女性は水平思考、男性は垂直思考だというでしょう。跳ぶ感じが好きなんです。
あと、そうですねえ……、三つといわれると困っちゃうんだけど……。

 肉体的なものでもいいんですけど。

竹宮 肉体的には、きゃしゃな感じが好きですね。成長期の少年って針金細工みたいにやせてるでしょう。

 ブヨブヨしてるのもいますけどね(笑い)。

竹宮 肥満児ってよくわからないんですね。むしろ、女性的に見えたりするんです。

 現実の少年に対する見方ですか、それは。

竹宮 現実ですよ。私は、先生になろうと思ってて、中学の生徒を教えるはずだったんです。ちゃい子どもはあんまり相手にしたくないんですね。だから、ときどき合宿に行って中学生を相手にすることがあるんですけど、いろんなことに対して、自分で石を投げて試してみようとする年ごろがすごく好きですね。
言うことを聞かなくても、こっちに関心を持ってるという状態が好きで、そのへんのやりとりというか、かけ引きというか、いいですね。

 少年の目を、怖い! と感じたことはありませんか?

竹宮 それはあんまりないですね。陰険な中学生というのに出会ったことがないんです。その点は幸せなのかもしれませんね。

 “少年愛”の意味を、竹宮さん風に説明して下さい。

竹宮 “少年愛”が何かっていわれると困っちゃうんだな……。すべての愛情問題の基本という感じですね。性というものがまだなくて、人間対人間であるという状態なんですね、少年同士というのは。
女性同士というのは、つねに女性を感じ合いながら付き合ってるというところがあるでしょう。つねに女たるものが擁護されてるでしょう。それがないという部分で付き合う厳しさが少年同士にはありますね。

 友情とも言えそうですね。

竹宮 そうですね。最初は、「少年愛」なんてことばに行き当たらないんです。つねに友情で、友情問題が私にとっては一番大事だったんですね。だから、男女の友情問題についても、すごく悩んだりしました。しばらく付き合って気が合うと、相手はなぜか手紙をくれて「付き合ってくれ」というんですね。いまも付き合ってるじゃないか、と文句言いたくなっちゃうんです(笑い)。
そういうことから、理想的な友好関係をずっと持ちたいと思ったんですね。いまでもそうだけど。

 SFの世界がお好きなのはどういう理由からですか。

竹宮 自由だということですね。いま経験できないようなことでも、すべてつくって、そのうえで起きるドラマを考えられるという便利さがあるでしょう。どんな想定でもできるわけですね。世の中がこのまま進んでいって、こういう理由でこういうふうになってしまった、というところから話が始められるのは、スケールとしてすごく大きくなるし、好きですね。

 SFといっても、“サイエンス・フィクション” “サイエンス・ファンタジー”と、二とおりの解釈があるようなんですが──。

竹宮 私は、ファンタジーがあんまり得意じゃないんです。理解できない、というふうに言ったほうがいいかしら。普通の人がSFという場合、突拍子もないものに感じているでしょう。そういう感じをファンタジーに対して抱いているんです。まか不思議という感じで。SFというのは、単なる仮定の話だと思うんですけど、ファンタジーというのは、もっと違う、心の産物ですから、描くのがむずかしいです。

「ガラスの迷路」はファンタジーですね。

竹宮 私は、「ガラスの迷路」は理論的に説明しようと思えばいくらでもできる設定だと思うんです。気持ちの強さで時空を超えるということはいくらでもあり得るから、それを設定するのはらくなんですね。それがすごくファンタジーっぽく描かれているというだけなんじゃないかな。ほんとのファンタジーって、ああいうものじゃないと思うんです。
「ナルニア国物語」──タンスを開けると別世界に行くというお話──とか、「アリス」とか、理由のない不思議さをファンタジーだと思ってるんですね。だから「ガラスの迷路」をファンタジーといわれると、ほめことばと受け取ってうれしいんですけど、ほんとにそうなのかなといわれると、違うんじゃないかと。

 石森さんは、年を取るにつれて少年ものが描けなくなったとおっしゃっているんですが、竹宮さん自身は五十歳になっても少年が描けると思いますか。

竹宮 私は描けると思うんですね。 石森先生は、遠藤さんと同じように大人だと思うんです。人間って、大人になっちゃう人と、いつまでも大人にならない人がいるみたいな気がするんですね。大人になっちゃった人の魅力というのは、ならない人の魅力とは全然別で、いわゆる少年っぽさとは違ったすっかりわきまえてるよさというものだと思うんですね。私は、そういうふうにはなれないんじゃないかと思うから、いつまでも少年を描けるんじゃないかと思うんです。

 これから作品は変化していきますか?

竹宮 もちろん変化すると思うんです。またスランプが来て、ハタと気付くことがあったりすると、少女を描きたくなるかもしれませんしね。最近、女の子を描く執着がようやく出てきたので、女の子の話も描いてみたいなと思ってるんです。



■オトメチック質問

 竹宮さんのチャーム・ポイントは?

竹宮 そうですねえ、一応、目が一番好きです。やせているときは、背中が好きだったんですね。うしろすがたというのかな? 見るのは大変ですけど(笑い)。

 性格では?

竹宮 建設的なところが好きですね。いまはダメでもあとでは何とかなるだろう、何とかなってやろう、みたいなところですね。

 学生時代のニックネームは?

竹宮 竹ちゃんでしたね。

 得意な科目は?

竹宮 高校時代に好きだったのは地学です。そんなにいい点が取れたとは思わないけど、好きでしたね。

 そのことはまんが制作において、プラスとなっていますか?

竹宮 星座のことを習うでしょ、天球儀で、何度に何があってというふうに。それがすごくSF的な気分になれるんですね。地質学もSF的だし。

 生まれたのは夜ですか、朝ですか。

竹宮 よく知らないんですよ、聞いたことがないから(お母さんの話によると、朝の五時)。

 病院でですか。

竹宮 自宅でだと思います。祖母が取り上げたんじゃないかな。

 目方は?

竹宮 そういうことは知らないんですよ(笑い)。でも普通だったんじゃないかなあ。とくに何も聞いてないですから(お母さまの話によると九百五十六匁=約3500グラム)。エーッと何グラム?! おバアちゃんにでも聞いて、計算してみてください!

 小さいころから丈夫でした?

竹宮 そうでもなかったんです。小学校のころは、しょっちゅう扁桃腺で熱出して、学校もしょっちゅう休んでたような気がしますね。

 お酒は強いほうですか。

竹宮 全然ダメなんです。 二十歳ごろは、友だちとブラッと行って飲んだりしたこともあったんですけど、飲むというほどは飲んでなかったですね。いまは、誘われてブラッと出るなんてこと、とてもできないでしょう。だから、ダメなんですね。

 虫歯はありますか。

竹宮 ええ、何本もありますよ(笑い)。

 食べものは何料理が一番お好きですか。

竹宮 和食が一番いいですね。だけど、外国に行くと平気なんです。そんなに和食を食べたいなんて思わないで、向こうの食事が好きになるんですよ。

 とくにどんなものが?

竹宮 わりと安っぽい、どこででもできるというか、家庭でつくれるつまんない料理が好きですね。

 視力は?

竹宮 0.1なんですけど、全然メガネはかけてないんです。

 好きなスポーツは?

竹宮  スポーツは何でも好きです。かけっこがおそいんですね。だから、運動神経はないものだと決めつけていたら、中学の先生に運動神経とかけっこは関係ないといわれて、突然、目覚めたんですね。急に何でもやりたくなって、動かすのが好きになりました。

 好きな国は?

竹宮 いろいろ行ったんですけど、やっぱり何となくドイツがいいですね。ことしも冬になったら行こうかと思ってるんです。冬がいいんですよ、ヨーロッパは、すごく静かでね。人の多いのはもウンザリ(笑い)。

 お好きな動物は?

竹宮 やっぱりネコですね。お産のときにネコがいてはいけないっていうでしょう。うちの母親は一緒に生んだんです(笑い)。

 じゃ、お母さんもお好きなんですね。

竹宮 そうなんです。だから、生まれたときからずっとネコと一緒でしたね。プシキャットは、私が一人になって飼った初めてのネコですけど、もう、五、六年いますよ。

 流行に敏感なほうですか。

竹宮 そのとき流行しているものを着たり、はやってる歌をうたってみたり──音痴ですけどね──することは好きなんですよ。しばらくぶりで渋谷に行って、金色のバレエシューズをはいてみたりその場で洋服を一そろい買ってみたりするんですね。そういうことを突然やりたくなることがありますね、やっぱり。

 感動した本というと?!

竹宮 探偵ものはそんなに好きじゃなかったんですけど、冒険ものは好きですね。海洋冒険ものってあるでしょう、「十五少年漂流記」とか。あと「地下の洞窟の冒険」というのがすごく好きなんですね。あんまり知られてないけど、岩波の「少年少女文学全集」の中に入ってるんです。 れから、ケストナーのものはみんな好きですね。
日本の作家のもので「少年オルフェ」というのがあるんですけど、あまりにも変わった話だったんで、いまでも尾を引いていて、いま描いてるのは「オルフェの遺言」というんです。

 詩はお好きなんですか。

竹宮 いえ。私はあんまり詩は読まないんです、つまらないから(笑い)。気分で、読めるとき、読めないときがあるんですね。自分で話をつくろうと思ってイメージがあるときに、いろんな詩を読むとピタリとくるとかいうことはあるんです。「風と木の詩」は、コクトーが多いんですね。ああいうの、好きは好きなんですけど、それ以外では、詩を書いてみようとか、電車の中で詩集を読もうとか、思ったこともないんです。だから、詩が好きというわけじゃないんですよ。でも、ことばを転がして遊ぶことは好きで、ときどきやるんです。

 クラシックには、いつごろから興味をお持ちになりましたの?

竹宮 増山さんの影響なんです。私はそんなに深く知ってるほうじゃないんです。でも、音楽の中にあるおもしろさはわかりましたね。

 竹宮さんは当年二十八歳と、いうことですが……その年頃の主婦とかOL……それら、普通の女性が歩む道に対して、どういう見方をしていらっしゃいますか?

竹宮 私は、ウーマンリブとか何とかいってるけど、女というのはやっぱり銃後の者であるほうがいいという気がするんです。昔からの保守的な意味じゃなくて、理想的な意味で、男と女の役割がバランスよくあるというのはいいことだと思ってるんですね。女だって、男と同じように考えることは悪くないけれども、やらなきゃならない仕事は違うと思うんです。
だから、普通の主婦でも、OLでも、女性としてよくなろうと努力はしてほしいなと思いますね。



■もし……したら?!

 すきなことばは?

竹宮 信頼とか、仲間とか、友情だとかが好きですね。

 好きな花は?

竹宮 水仙とか、ボケとか、日本的なものが好きです。

 好きな季節は?

竹宮 ウーン、秋かな……?

 好きな色は?

竹宮 青系統が好きです。青とか、グリーンとか、黒とかね。

 どういう男性が趣味ですか。

竹宮 本音しかない人が好きです。

 コーヒー党ですか、紅茶党ですか。

竹宮 紅茶党です。

 特に、どの種類が?!

竹宮 気分でいろんなものを飲んでますけど、最近はオレンジペコーが多いようですね。

 人間の感情の中で一番嫌いなものは何ですか。

竹宮 人を疑ったり、恨んだり、というのはいやですね。

 いま一番したいことって何ですか。

竹宮 仕事以外のことなら何でもやりたいですね。引っ越してきたんですけど、家の中が全然まともになってないでしょう。だから、家の中を何とかしたいと思ってるし、スケートボードをやってみたいし、ラジコンもほしいと思ってるんです。やりたいことなら無尽蔵にあるんですけど、何にもできなくて……。

 有名人で、一番会いたい人はだれですか。すでに亡くなっている方でもけっこうなんですけれど。

竹宮 ケストナーに会ってみたいですね。死んだって聞いたときは、会いに行きたかったな、って思ったんです。何回かドイツに行ったときはまだ生きてたんで、行ってくればよかったなって思いましたね。

 もし、星が一つだけあなたにプレゼントされるとしたら、どんな名前をつけますか。

竹宮 そうですねえ……。

 自分の名前をつけますか。

竹宮 いえ、そんなことはないです。もっとすてきな名前をつけます、いますぐには思いつかないけど。響きのいい名前をつけたいですね。

 もし、竹宮さんが息子を生むとしたら、これまでのキャラクターの中でどの少年が一番適していると思われますか?

竹宮 家庭として一番あこがれているのは「ブラボー・ラ・ネッシー」のようなところですね。何となく友だち家族みたいでしょ。そこに出てくるトミー君というのは、大人と同じくらい天才的な頭を持っているわけですね。だから親より上であってほしいと思うんです。

 もし竹宮さんが男性だったら、どんなタイプのお嫁さんがほしいですか?

竹宮 私は、スカーレット・オハラが好きなんですね。だから、男だったら、ああいう女性が飽きなくていいんじゃないかと思います。

 もし、この忙しい最中に、アシスタントさん並びにマネジャーが、突然やめると言い出したら……どうします?!

竹宮  恥も外聞もなく、取りすがって止めるでしょうね。そしてダメだと思ったら、コロッと態度を変えちゃう(笑い)。

 どうもありがとうございました。



■インタビューを終えて……

“サンショは小つぶでピリリッとからい”ということわざがありますが、竹宮さんは、まさしく“小つぶのサンショ”。
きゃしゃな身体に大きな瞳、ショート・ヘアという彼女の容姿は、誰もが言うように、“少年”を連想させます。
彼女の身のまわりの世話をまめまめしくしている、マネジャーの増山さんを“お母さん”と呼ぶならば、ちょっぴり甘えんぼうの“息子”が竹宮さんと言えそう……。
とてもとても、ほほえましいお二人でした。



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