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【対談:ささやななえ・竹宮惠子】
ささやななえ自選集2「ささやななえ今昔物語第2回」

資料提供:https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/gcomic/163500...



ささやななえ自選集2
発売日:1997年06月11日
出版社:講談社
ささやななえ自選集のサイト↓
https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000031649





対談:ささやななえ・竹宮惠子
(図版に続いてテキスト抽出あり)













対談:ささやななえ・竹宮惠子


出会いの朝

編集 まず、おふたりが知り合ったきっかけを教えてください。

竹宮 …うーん、そもそもは… 大泉サロン?(註:当時、竹宮氏と萩尾望都氏が住んでいた場所)

ささや そう、大泉サロン。 萩尾さんが北海道の実家に遊びにて「東
京にきたときには泊まりなさい」っていわれて、東京にきたらそのまま居ついてしまったという…。
最初の夜にはいなかったんだよね。

竹宮 私? そうだったっけ。 よく覚えてないけど。

ささや どこかに泊まりにいっててね、そのときいたのは、モーさま (萩尾望都氏)と、イクミタン(イケダイクミ氏)と、サトさま(佐藤史生氏)くらいだったの。それくらいしかいなかったんだ。

竹宮 もうあの頃のことは、どの時期に誰がいてっていうのがわからなくなってる。出入りが激しくって。“去るものは追わず…

ささや 来るものは拒まず”(笑)。だから私もね、その日食事しているときに、今食事をしているなかに、竹宮さんがいるのかわからないわけ(笑)。
で、誰かが「あれー、今日は帰ってくるのかな?」って、それでいないってわかったような感じで。

竹宮 私、ささやさんがくるって意識、あったのかなあ。

ささや くるって知らなかったと思う。

竹宮 聞いてても、それによって自分の行動を変えたりとかってなかったから…。

ささや あなたの文庫本のあとがきにも書いたと思うけど、私が朝起きたら、コタツのところで、たしかこの人ゆうべいなかった、と思う人が、ボーッとパンかじってるの。「たぶんこの人が竹宮さんだろうなあ」って思いながら、ふたりでコタツに入ってずーっと沈黙してたんだよね。ともかく黙々とパンをかじってた。

竹宫 よくおぼえてない。それが初対面?

ささや そう、初対面。



家主からみた大泉

編集 ということは、竹宮先生にとってささや先生の初対面のイメージというのは、気がついたらいた、という感じなんでしょうか。

竹宮 それは、あそこにきたすべての人がそんな感じだった(笑)。
家主ではあったけれど、出入りについてはチェックしないし、ほんとうに自由なコミューンみたいな感じでやっていました。だから、どういう暮らしをしていたかよくわからないのよ。
個々で別れるってこともなかったし、忙しい人がいれば、その人を手伝うのがあたりまえだと思ってたし。あれって時代なのかな。

ささや 若さのせいだよ。

竹宮 若さだけじゃなくして、今の若い子だったら、わりと個別を好むし、自分の権利にうるさいでしょ。
でも、あの頃っていうのは、コミューンみたいにするのが、かっこいいっていうのがあって。あんまり人と自分を分けなかったのよね。

ささや 最近思ったんだけど、あのとき半年も居候してて、生活費を払った記憶がないの。これは悪いっていうので、最後の1ヵ月だったか、1万円だけ払ったんだけど。だから、あのときどうしてたんだろうって。

竹宫 私もあんまりそういうこと考えなかったなあ。週刊誌をやっていたから、ちょっとゆとりはあったかもしれないけど。

ささや 誰も心配してなかったよね。

竹宫 まあね、そういうことには誰もこだわらなかったね。 すごいせまいところだったけど、よくやっていたよね。

編集 どんな間取りの家だったんですか?

ささや (間髪入れず)せまかった!

竹宮 下が4畳半で……。

ささや タンスとね、テレビがあったの。

竹宫 で、お風呂と台所しかなかったの。

ささや 2階が3畳と6畳。

竹宮 そこに私のベッド入れてね、1台。

ささや よくあんなせまいところにベッドを入れてたよね。 なんでベッドがあったの?

竹宮 昔からずっとベッドで寝てたの。

ささや でも、誰もケーコタンがまともに寝てるの見たことない。みんなが交互に寝てた。

竹宮 私が「ここに寝てるの誰?」みたいな(笑)。

ささや シングルベッドなんだけど、誰かがふたりで寝てるんだよね(笑)。
私、一度大泉の写真を撮ったことがあって、この前見たらすごく小さいベッドだったの。よくふたりも寝れたなって感心しちゃった。

竹宮 えっ、あの頃の写真があるの? おそろしい…(笑)。



アブない!?男女関係

編集 話をうかがっていると、ほんとうにサロンのようなものだったんですね。

竹宮 サロンですね。自分の家っていう感じではなかったですね。

ささや サロンというよりは長屋かも…(笑)。
そういえば、マニアの男の子たちが“来るものは拒まず”だから、よく出入りしてたでしょ。私、2階で寝ててね、朝、たしかゆうべは遅くまで、ゴチャゴチャ4畳半の居間にいたなあと思って、下に降りていくと、男連中がみんなでゴロ寝してるの(笑)。こいつら泊まってったのかってね…。

竹宮 そう、男の子も平気で入れてたよね。理不尽な連中だと、ご近所には思われてたかもしれないけど。

ささや なんか平気だったね。若かったせいかなあ。

竹宮 あぶない事件なんて、何もなかったしね(笑)。

ささや あれだけしょっちゅう人が出入りしてたら無理! だいたい恋愛対象になるような男なんていなかったし。今でいうオタクみたいな感じなんだから。それも、極端なオタク。

竹宮  漫画の話しかしない(笑)。恋愛の話なんて出たこともない。

ささや でも、恋愛もしたかったのかもしれないよ。

竹宮 えーーっ、そう?

ささや でもさ、何人かでかたまってきてたでしょ。こっちもゴロゴロといつも何人かでいたから。
あれ、1対1だったらわからなかったよ。

竹宮 そうかなあ。私、想像できないなあ、あのメンバーじゃ(笑)。



スイート・メモリーズ

ささや  あんまりふたりで話をしてたっていう思い出がないんだけど…。

竹宮 そうね。いつもみんなでいたから。

ささや それだけにすごく印象に残っていることがあるの。
ふたりで買物に行って、当時はまだ舗装されてなくて、土の道で穴ぼこだらけで…。 そこでおしゃべりしながら歩いていてね、私が夢中になってしゃべってた。
ところが、ふと歩いていて横を見たら、あなたがいないの。で、後ろをふりかえったら、ちょっと離れたところの穴にだまーって立ってるのね(笑)。

竹宮 フフフ…。

ささや 駆け寄って、どうしたのって聞いたら「落ちたみたい…」 っていうんだけど。
ほら、普通だったら悲鳴とかあげるじゃない。でも、こっちが気がつかないくらい黙ったまま、ボコッと落ちてしまってね…。

竹宮 (笑)。あんまりびっくりしたんで、悲鳴もあげられなかったの。

ささや 私そのとき、この人どういう人だろうって思ったのよね。

竹宮 そう? あなたから聞くまですっかり忘れたんだけど。でもね、私そういうことってよくあるから不思議じゃないの。

ささや あのときもそういってた。「よくあるの。声立てずに落ちるの」って(笑)

竹宮 ひっくりかえるとか、車なんかであぶないめに遭いそうになったとかいうときって、声を出さないの。声を出すヒマがあったら避ける。

ささや ヒマがあったら避けるけど、避けもしないで落ちていった…(笑)

竹宮 重力にはさからえないのよ。

ささや でもね、感心したのは、結構深い穴だったのに、転ばずにまっすぐ立ってたことなの。普通だったらくじいたり、姿勢を崩したりするのに、まっすぐ立ってるのね、なんて器用なんだろうって。あれが大泉でいちばん思い出に残ってる。



結婚式を演出

編集 大泉を離れられてからは?

竹宮 それでも、結構近いところに住んでいたので、お互い行き来はしていました。

ささや たまたま、当時の知り合いの編集さんが、マンションに移るからって、私に住んでたアパートを紹介してくれて。そうしたら、そこがあなたが住んでいるところに近かったのよね。

竹宫 その後、私が引っ越すときに…。

ささや そこを「誰か知ってる人に借りてもらいたい」っていうので、結婚直後の私が借りたの。
台所が狭いのを知っていたから、私はいやだっていったのに、この人(竹宮氏)が、壁一面の本棚を残していくっていった途端に、ウチのがひっかかりまして…(笑)。

竹宮 他の人が入ったら、こんなものいらないかもしれないし、もったいないとかいって。

ささや あなたもベッドも残していくとかいってね。でも、あのベッド、ボロボロだけどいまだに使ってる。

竹宮 そういえば、結婚式もしてあげたのよね。

ささや そうそう、全然結婚式なんてするつもりがなかったんだけど、してくれるっていうんで…。

竹宮 結婚式をダシにしてっていうわけじゃないんだけど、ウェディングケーキが作りたかったの(笑)。
ほら、そういうときってない?

ささや 私も、新婚のとき一度だけおせちを手作りで作った。でも、一度だけ(笑)。

竹宮 私の持っていた外国製のジュニアサイズのドレス…。 外国のってサイズが大きいからジュニアでぴったりだしね。 ウェディングドレスを着て…。

ささや ウチのがどこからか借りてきた貸衣装のハカマでね。

竹宮 近所のケーキ屋さんで、ケーキ台を焼いてもらって、デコ レーションを私がしたの。真ん中にベッドがあって、ウェディングドレスとタキシードを着たネコがその上にのっていた。

ささや かわいかったよね。今でもうちにあの飾りあるわよ。いろ いろありがとう。



ルーツは同じ

編集 作品についてですが、 ささや先生の作品はいつ頃からご存知でしたか。

竹宮 それはもちろん、かなり最初の頃から読んでます。
だから、誌上では知ってる、名前を聞いたら「ああ、あの人か」っていう程度の認識はありました。

ささや のんタン(増山のりえ氏)がいってたけど私が「天使たちの丘」を「りぼん」で発表したときに、「あっ、絶対同じ感覚を持っている」 って、そういってたんだって?

竹宮 うん、だから大泉に呼ぼう、呼ぼうっていうのがあって、チャンスがあったら声をかけようっていく気持ちでいたの。

ささや 声をかける前に、図々しく北海道から乗り込んでいって、居座っちゃったのね(笑)。

竹宮 同じ感覚っていうことでいうと、石ノ森先生(石ノ森章太郎氏)に影響されたっていう共通点が、ささやさんとはあるから。そんなことで、まったく違和感はなかったですね。



たたらの辻に…

編集 いちばんお好きなささや先生の作品はなんですか?

竹宮 私「たたらの辻に…」に出てくる清美ちゃんが好きなの。

ささや そういえば、そんなこといってたね。私も好きなの、あのキャラクター。

竹宮 すごくナナエタンの内面に合ってる。ちょっと日本風のところとか、なんていったらいいのかな、幽玄な部分っていうところとか。そういうところ、持ってるでしょ。

ささや うん、あった。今はだいぶなくなってる。

竹宫 そう(笑)。

ささや 人のを読んでるほうがおもしろいんだもん。だから、描く必要ないか、と思って(笑)。

竹宫 私はああいう不思議さを残しているのが好きなの、この頃。怪奇ロマン的なものってたくさんあるんだけど、みんなすごく派手でしょ。派手すぎて…。

ささや 地味だからねえ。私の…(笑)。

竹宮 ほんとうの匂いっていうか、雰囲気っていうのが出ないじゃない。あんまり派手すぎても。
そうじゃない地味さっていうのに、結構ハマってるの。

ささや 日常からなかなか出ていかない…。

竹宮 そういうのがいいの。リアリティがある。

ささや ほんとうはもっと派手にしたいんだけど、思いつかないだけなの。どうしても日常の中で。



清美の魅力

ささや でも、清美は描きやすかった。動かしやすいキャラクターでね。わかるでしょ?

竹宮 いい子じゃない。

ささや ねーっ。ってオバさんみたいだけど。ちょっとおいでって感じでね、もういいようにできるぜ、コイツって。

竹宮 いい子だから地味なのよね。それなりに悪い子だったら、派手になるんだろうけど。立ち回りがどうしてもね…。でも、そこがまたいいのよ。

ささや あの作品で、清美の性格が出てるなあと思ったのはね、水の中に飛び込むんで、服を脱ぐシーンがあるじゃない。

竹宮 うん、うん。

ささや ちゃんと学生服のワイシャツの下に肌着着てるんだよね(笑)。わかる?

竹宮 わかる!(笑)

ささや 今の子だったら着てないんだよね。なのにちゃんとランニング着てるの。

竹宮 そういえ節操はありますよね。でも、そこがいやらしいのよ。

ささや いかにも着そうじゃない?(笑)

竹宮 あのシリーズはもっと続けてっていってたんだけどね。

ささや 設定はあるんだけど、時代ものになっちゃうの。前世の話になるから、そうすると私、きものって描けないの。それでやめたの(笑)。
まあ、あの子は使えるキャラクターだから、どこかに使おうとは思ってるけど…。

竹宮 私もああいうキャラクターを描くと、同じような色になるなって気がするのね。すごく。

ささや ずっとお互い、石ノ森先生に影響を受けたからじゃない?

竹宮 そのせいかなあ。

ささや 絶対そうだよ。

竹宮 日本的な、暗い森の中のような…。

ささや そうそう「ミュータント・サブ」とか「竜神沼」とか。あるんだね、やっぱり。



実は私が竹宮作品を…

ささや あのね、あなたの作品で、腕が痛くなったかなんかで、3、4ページ分私が主人公のペン入れをしたところがあるの。

竹宮 え、どれだっけ、どれだっけ。覚えてる?

ささや うん、男の子と女の子の話。

竹宮 (笑)。

ささや うーん、雪が降ってた。

竹宮「ホットミルクはいかが?」?
「ホットミルクはいかが?」:『週刊少女コミック』1972年52号掲載

ささや はい、はい、はい。

竹宮 スランプでなかなか描けなくて、シクシクいいながら描いてたの。

ささや それで、途中で手が動かなくなったのよ。
でね、自分のペンタッチって実は決まってないのね。私自体は。でも人の絵だと、似顔絵はできるほうだから、こういう風に描けばいいのねって、輪郭を描いたときに「ふふふ、我ながらうまいじゃん」って(笑)。
だって、ケーコタンの線ってすごくキレイな線なの。でも、自分の原稿にむかうと、その線が出ない! 自分の線になっちゃう。さすがに目だけは個性が出るから、そこだけ描いてもらったら、もうわからない。

竹宮 それでわからないのかな。ほら、冷静になって昔の作品を見ることがあるじゃない。そうすると、これは私の線じゃないけど、どういう事態だったかおぼえてないっていうのがあるのよね。

〈ここで、一旦中断。竹宮氏「ホットミルクはいかが?」の本を持ってくる〉

ささや 私が描いたのはね…、ここだ! ここだと思う。

竹宮 あ、これね。ふーん、これそうなの? 今の絵とちがうから全然わからない。

ささや 私もね、今回「ダートムーアの少年」 (自選集1巻収録)を載せるんで、修正してたら、これまるまる1枚ネコちゃん(山田ミネコ氏)とか、まるまる1枚竹宮惠子とか、まるまる1枚萩尾望都とか出てきて。あの作品、すごい貴重(笑)。

竹宮 あのときは全然、マネするなんてしないで、自分の線で描いてたからね。だいたいそうしろっていったって、あなたの線はマネできない。特殊な線でしょ。

ささや いないの。私のはね、誰もマネできない。ちょっと前、ひとりだけいて、びっくりしたくらい。



ヒメダルマ!?

編集 これからのささや先生に望むことを教えてください。

竹宮 そうですね。もっと日頃観察していることとか眼力を使えばいいのにとか…。

ささや でも、そうすると「おかめはちもく」みたいなコメディになっちゃうの。
シリアスで出したら、モデルにした人物に悪いじゃない。

竹宮 悪い? 別にその人だっていってるわけじゃないじゃない。

ささや 本人がわかったらどうするの?

竹宮 わからないよ、読まないって、そういう図々しさがないと。

ささや よっぽど、その人に腹の立つようなことをされたら、復讐してやるぅって描いちゃうかも知れないけど(笑)、そうじゃなくて使うのは、なんかねーって。

竹宮 私、そういうのに遠慮がないから。

編集 最後に、ささや先生をひとことで表すと、どんな方ですか。

竹宮 うーんひとことですか。形はヒメダルマのような(笑)。

ささや それ、大泉時代のイメージじゃない。みんなそういうん けど。で、形以外は?

竹宮 すごくめずらしい友人ではあります。ずっと全然変わらない。
他の人は、久々に会うとちょっと変わったかな、とか思うことがあったりするんだけど、ささやさんの場合、1年話をしなかったわねっていっても、同じ感じで…。初対面のときから、たとえ80歳になろうが変わらない。それって、女性では貴重ですよね。
ずっとそういう存在でいてほしいと思います。