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【ファン気質今昔:増山のりえ】
ぱふ1982年8-9号「特集竹宮恵子part2」

ぱふ1982年8-9号「特集竹宮恵子part2」
発行日:1982年08月01日
出版社:雑草社


資料提供
https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/gcomic/163189...


ファン気質今昔:増山のりえ
(画像に続いてテキスト抽出あり)




ファン気質今昔:増山のりえ

♬ピンポーン、玄関のチャイムが鳴る。家の中の空気が一瞬硬直する。寝ま着姿の竹宮は足音をひそめて自分のアトリエにひきこもり、私とメシストさん(食事係)は互いに「あなたが出なさいよ。」と目で押しつけあう。

ファンの突然の訪問ほど、我が家に「当惑」を招くものはない。なぜなら竹宮は一週間から十日にわたる仕事場での闘い(時間と編集者と自分の作家性をかけた、まさに戦争である)を終えて自宅に帰りつき、ほんの少し休養を楽しんでいるのだ。
(他の作家はいざしらず)自宅に戻った少女漫画家は、白いドレスに身を包む優雅さとは逆に、
1:まずむさぼるように寝る。
2:寝ま着のまま家中を歩きまわり、日頃ためた雑事を片づける。
3:即座に次の仕事のネーム考案のため、アトリエの机の前で呻吟を始める。
「自分の時間」「人間的な生活」は、まず無いに等しい。その最中に見知らぬファンが突然、玄関のチャイムを鳴らすと、家中の誰もがうろたえるのだ。熱心な読者に、はたしてヨレヨレの寝ま着姿、ボサボサ髪の竹宮を会わせるや否や?疲労のため目のまわりにクマなぞつくっている本人を?

幸運にも(!?)本人が仕事場からひきあげたばかりで、ホッとひと息紅茶なぞ飲んでいる時に訪問してきたファンには会う。竹宮はサービス精神が旺盛だから色紙なぞ頼まれるままに五枚でも十枚でも描く。一緒に写真をうつす。質問になんでも答える。ファンは大満足して帰るわけだが、後日ハガキが舞い込む。
「先日はありがとうございました。今度は ○月×日に友人を十人ほど連れてゆきますのでどうぞよろし(ハート)」

一般に少女漫画家は消極的で、ファンに会いたがらない、ときく。作家的デリカシーのせいでもあろうが、大なり小なり熱烈なファンからの思いもよらぬ被害を受けたことがあるのではあるまいか。十数年マネージャーとして作家の横から活動を眺めていると、作家が「ファン恐怖症」に陥るのは仕方がないような気さえしてくる。
ファンのあまりにも傍若無人な行動に立腹したことは多々あるが、それをこと細かに書き並べると、「ああ、こうすると作家を困らせることができるのか。」なぞと反面教師に活用するバカ者が出ないとも限らない。

☆仕事場にファンが来る。せいいっぱいもてなす。本人が帰ると同時に机の上にあったはずのカラーカットが一枚粉失している。
☆家出少女がとび込んでくる。ビックリして保護し、今プロダクションは社員募集はしていませんからと説得しつつ親に連絡する。飛行機なぞでかけつけた親は「うちの娘は悪くない。家出する気にさせたあんたが悪い。」とばかり終始横を向き、礼ひとつ言わずそそくさと帰ってゆく。仕事は大幅に遅れる。
☆マニアからブ厚い手紙がくる。何事ぞ、と開封すると、重箱のスミをつつくような指摘が並んでいる。やれあなたの描くピアノの鍵盤は88鍵ないですね、ピアノを弾く指の形がおかしい、○×頁の横顔はデッサンが狂ってますよ。etc

ーーこの種の手紙には二つのタイプがある。ひとつは特に男性マニアに多いのだが「どうもささいなことを申しますが...。」と多少の照れとユーモアをまじえるので、作家への好意が文字の間で踊っている。素直な気持で「次回からは注意しましょう。」と受けとめられるし、読んでいても楽しい。
もうひとつのタイプがクセ者で、文章は終始高圧的、つまるところ作品の弱点を指摘することで自分はこんなに物知りなんだぞ、あんたよりえらいんだぞ、の「屈折自己主張型」で作家が一番嫌うタイプのファンである。そんなにごりっぱなら、文学なり音楽なり漫画なり、創作の場ですぐれた自己表現をなさったら、と皮肉のひとつもとばしたくなる。

☆春秋の学園祭シーズンになると、講演や座談会への出席を求める手紙があちこちから舞い込んでくる。当方のスケジュールの厳しさを説明し、出席を断わると「どうしてですか。どーしてもダメですか。」と居直る。あまりの態度にこちらはあいた口がふさがらない。
☆「少年合唱団のファンです。先生の持ってる合唱団の写真と私のと交換して。」という手紙も多い。希望どうり五枚くれた人にはこちらからも五枚、十枚の人は十枚、と送りかえしていた。すると「竹宮恵子がうつした合唱団の写真というのを高く売りつけられた。」と苦情がきた。怒るよりも驚きが先にきて、その知能犯ぶりに舌を巻いたもちろん以後、ファンに写真を送るのは中止した。

などと並べたのはむしろ可愛いファンというべきで、なかには完全に精神病院にお連れしたほうがよさそうな方も出現する。見知らぬ人から「○月×日、福岡のAであなたに会い、お金をかした。早く返してほしい。」大阪のサイン会ですら日帰でこなさねばならぬハードスケジュールの竹宮が福岡に出向けるはずもなく、完全にぬれぎぬである。このような自称竹宮恵子が日本各 地に時おりお出ましになる。

竹宮恵子の作品のナ二がシは自分の原作を盗用したものだ、と主張した御工もいた。こちらには竹宮自身が発案した証拠がいくらでもあるので、どうして法的手段に訴えないの、というと突然トーンダウンする。要するにまわりの友人の同情を集めたかっただけらしい。
一方では名もつげず季節の花束をそっと玄関に置いてゆく奥ゆかしいファンもいれば、手製のクッキーやケーキを「焼きたてです。すぐ食べて。」と届けて笑顔だけ残して帰ってゆくファンもいる。なんというファンの多種多様さ!なんという人間性の幅広さ!

十年以上、淡々と手紙をよこし、ローティーンから大学生、そして結婚して母親となり、竹宮漫画のとらえ方の変化を報告してくださる主婦もいる。これはうれしい。
過ぎてしまえば笑い話にもなるが、大なり小なりファンからの被害は今も後をたたずに続いている。これも一種の有名税、楽屋裏のゴタつきなぞ読者にお見せするべきではない、と思いつつも一度くらい「なめたらいかんぞよ!」と大声でどなりたい。
例えは「たのきん」のような人気タレントは被害のスケールが、こちらの何倍も大きいだろうし、高名な文学者などには、もっと手のこんだ攻撃をかけてくる読者がいるともきく。

大多数の常識あるファンは一度くらい「ごくひと握りの非常識なファン」の行動に漫画家がどれほど被害をこうむっているかを、知ってくださってもいいのでは、と裏方からペンをとらせていただいた。(読者の側からすれば不快な事実でありましょうが、御理解いただければ幸いです。)

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