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【竹宮惠子ロングインタビュー4「天馬の血族:完全版4」2003年】

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竹宮惠子ロングインタビュー4「天馬の血族:完全版4」
インタビュー構成:梅澤鈴代
収録日:2003年05月07日
収録場所:角川書店会議室
(図版に続いてテキスト抽出あり)







竹宮恵子先生のこれまでの軌跡を振り返るロングインタビュー、第4回目です。今回は3巻に引き続いて
竹宮先生の代表作の裏話が盛りだくさん。「地球へ…」「風と木の詩」「夏への扉」「アンドロメダストーリーズ」など、
竹宮先生の作品にはアニメ化されたものも多いのですが、はたしてその実情は?
メディアミックスに対する先生の本音も聞けちゃいます。



「風と木の詩」開始
参照【竹宮恵子:風と木の詩

「ファラオの墓」 (*週刊少女コミック(小学館)1974年38-76年8号連載)がどうにか好評で終えられたので、ようやく「風と木の詩」(*週刊少女コミック(小学館)1976年10-80年21号・プチフラワー81年冬の号-84年6月号連載)を描けることになったんですが、本当に(編集部は)しぶしぶという感じでしたね。あの時代では、編集さんのほとんどが理解できない世界だったんでしょうね。「何を考えているんだ」みたいな陰口を聞いたこともあります。編集部としても、きっと10回連載して、ダメだったら切ろうかなと考えていたんじゃないかな。当時、山本さん(小学館の編集者)に「うちの本は皇居の中にもおさめているんだ」ってしょっちゅう言われてました。なのに、こんな変なマンガを描いちゃってねえ(笑)。

でも、「風木」は本当に描きたくて描きたくて仕方のない作品だったので、我を通しました。前に少しお話ししましたが、連載1回分ぐらいをすでに描いていたんです。だから、「ファラオの墓」の連載前に、編集さんにはそれを見せていました。私としては描かせてくれるのならどこでもいいという状態だったんですよ。「少女コミック」の他に、「りぼんコミック」(*集英社刊・1969年1月号-71年3月号まで発行)の編集さんにも見てもらったりしてました。秋山さんという方で、その時はとても興味を持っていただいたんですけど、その後、すぐに「りぼんコミック」が廃刊になってしまったので、結局連載できないまま終わってしまったんです。

少女コミックで連載できるようになっても、ちゃんと全部描けるかどうかはドキドキでしたね。私としても10回連載の壁はわかっていますから、何とかそれを超えられるだけの人気を取らないといけない。でも、「ファラオの墓」でちゃんとファンを作ってましたから、何とか続けることができました。

あの当時、小学館が夏休みにデパートの屋上でマンガフェアみたいなことをやっていたんですよ。ちょうど「ファラオの墓」を連載している頃で、自分としてはこのマンガがウケているかどうかわからなかったんですが、行ってみたら二千人(註「とんぼの本カレイドスコープ(2016年)」では3000人、「少年の名はジルベール文庫(2021年)」では3千人 参照【竹宮惠子インタビュー:ダ・ヴィンチ1997年07月号】)にサインをするハメになってしまって。あの経験は、私にとってすごく大きな自信になりました。「ちゃんとファンはついてきてくれているんだな」と。彼らを無視することは、編集者にもできないんですよね。この自信は、「風木」連載をする上での追い風というか、私の支えになってくれたと思います。

だからこそ、このファンの人たちをガッカリさせてはダメだという意識も強かったんですね。「風木」はできるだけオーソドックスな描き方で、わからないことがないようにしようと考えていましたが、それでも不安でしたね。「ファラオの墓」とはまったく違う内容ですから、嫌悪される可能性もありましたし。ですから、10回連載が終わるまでは、ファンレターをいっさい読まなかったんです。もし否定的な手紙を読んで、気分が萎えてしまったら終わりだなと思ったので。攻める気持ちを持ち続けたかったんです。「風木」は生半可な描き方じゃダメ、とことんアグレッシブに描かないと失敗する作品でしたから。



「風木」は自分の陰の部分

「風と木の詩」は、ストーリーの構成上、センセーショナルな部分を最初にいっぱい入れなければなりませんでした。この部分は絶対に変えるわけにはいかない。でも、それで拒否されてしまったら、何にもならないわけですよね。受け入れてくれるか、拒絶されるか、完全に賭でしたね。10回連載が終わって、おそるおそるファンレターを開いてみたら好評だったので、ようやくホッとしました(笑)。

「風木」はどうしてもセンセーショナルな部分が目立ってしまうんですが、その中に伝えるべき本質がある。読者はちゃんとそれを受け取ってくれたんですね。

もっとも男性だとやっぱり読むのにかなり抵抗感があるみたいですが。かなりのマンガマニアでも、この話には手を出さないという人はとても多いみたいです。この間、伊集院(光)さんにも「これだけはちょっと」と言われてしまいました。男性には根本的に理解できない部分があるみたいですね。今度、BS漫画夜話で「風木」が取り上げられるんですけど(2003年年5月26日放送)、大丈夫なのかなと心配してます(笑)。
参考:YouTubeに飛びます→【BS漫画夜話・第3夜「風と木の詩」2003年年5月28日(水)

本当は男性に限らないんでしょうね。好きな人は好きだけど、ダメな人は徹底的にダメみたいな、「風木」はそういう作品だったと思います。それもあったので、「風木」と同時期に「地球へ…」 (*マンガ少年1977年1月号-80年5月号連載)を連載したんですよ。私のプロデューサー的な立場になっていた増山のりえさんが、この傾向を危険に思ったんですね。彼女は、私がいろいろなタイプの話を描けることを知っていたので、「こういう話だけを描く人だと思われてしまうと損 だ。別の顔も見せないと」と勧めてくれたんです。正直に言って、重い「風木」をやりな がら別の連載をやるというのは難しい部分もあったんですけど、逆に息抜きになるからいいかなと思い直しました。「地球へ…」も重たい話ですけど、内容はぜんぜん違うでしょ。自分の「陽性」の部分で描く話だったから、楽だったんですね。そういう意味では、「風木」は自分の「陰」の部分──人の悪い部分を使って描いてますね。

「風木」は途中から掲載誌が変わっているんですが、これは自分から希望しました。その方が適当なんじゃないかなと思って。「少女コミック」は小学館の看板少女マンガ雑誌ですから、路線変更があったり、変化が頻繁なんですよね。本当ならそれに私がついていかなければならないんですが、この作品をやっていると無理だなと思ったんです。当時、ファンレターでも「風木」以外の少コミのマンガは読んでないという人が多くなっていたし、だったらここから退いた方がいいんじゃないかなと。正直なところ、連載スケジュールがきつくなっていたというのもあります。週刊から隔週刊になってはいたんですが、それでもまだ辛かったんですね。それで、当時の編集長の山本さんに無理矢理頼みこんで、移動させてもらいました(笑)。



「地球へ…」は1部で終わるつもりだった
参照【竹宮惠子:地球へ…

「マンガ少年」で連載していた「地球へ…」は短期だったので、それほど辛くはなかったですね。本音を言えば、ゆっくり説明しなければわからないような話ですし、もっと長く連載した方がよかったのかなと思います。いろんなことをぎゅっと詰めこんでる話ですから、読者にとっては説明不足に感じるところもあったかもしれません。私はこの詰まり方、けっこう好きなんですけどね。

SFを描くんだったら、メカをちゃんと描ける人を入れなきゃということで、「地球へ…」 ではひおあきらさんに手伝っていただいています。最初にお願いしたのは「ジルベスターの星から」(*別冊少女コミック(小学館)1975年3月号掲載)なんですよ。その時に私が「こんな形のロケットにしたい」とラフを見せたら、チラッと見て「飛ばないロケットは描かないよ」みたいなことを言われてしまって(笑)。でも一応、ちゃんとそのラフに近い形で飛ぶロケットにしてくれました。 ひおさんも私と同じ歳なんですよね。石ノ森先生のチーフアシスタントをされていたんですが、その時には私は忙しさにまぎれて、石ノ森先生と疎遠になっていて、面識がなかったんですね。「ジルベスターの星から」を描くことになったときに、私がロケットを描ける人を探していたら、前述したひおさんの前の石ノ森先生のチーフアシスタントの、桜多吾作さんが紹介してくださったんです。

これがキッカケになって、SFへの道が拓けた……というと大げさですが、そっち方面のお誘いをうけるようになりました。「地球から出ていく話ばかりだから、地球に帰る話を描いたら」と言われて、考えてみたのが「地球へ…」なんです。冒頭の成人検査のエピソードは、その頃に見た夢をそのまま使ってしまいました。本当は、あれで終わるつもりだったんですよ。でも反響が大きかったみたいで、「続けて欲しい」という話になりました。自分でも一部を描いたときに、「管理する側の話を描かないのは変かな」と思ったんですね。だから、続きは管理する側の話を描けばいいやぐらいの軽いノリでした。それが、 1部で終わる話が2部になり、3部になり……とうとう5部まで描いてしまったわけです。だから、「地球へ…」はラストを決めないで始まった作品なんですね。私の長期連載作品の中では珍しいパターンです。「イズァローン伝説」(*週刊少女コミック1982年5号-87年20号連載)が少し似てるかな。とにかく始めてしまって、途中でラストを決める、みたいなかたちの作品です。確か「イズァローン」は4巻目ぐらいに先が決まったんですが、「地球へ…」は2部が終わった段階でラストまで決めました。



「地球へ…」劇場アニメ化

「地球へ...」は劇場アニメにもなりました(*1980年公開・119分・製作:東映動画・監督:恩地日出夫)。最初のうち、私は反対だったんです。一部だけをアニメ化するならいいんですが、この話を全部入れようとすると、劇場アニメ1本の時間だと短すぎますから。でも、まだあの頃にはアニメで続き物の映画を作るという感覚はないんですね。 私は逆に「なんで続き物にしちゃダメなんだろう?」と不思議だったんですが、向こうには通じなかった(笑)。結局、全部映画化する 方向でGOサインを出しました。

時間の流れを扱うのが難しかったと思うんですが、なんとかうまくまとめてくださいましたね。監督さんが実写出身の方なんですよ。だから、実写の感覚が入ったアニメになったと思いますよ。今、毎年毎年、大学で新入生に見てもらっているんですが、みんな面白がってます。アニメーションらしくないカットなので、「あの当時、こんな作品があったのか」ってビックリする人がけっこういましたね。「宇宙戦艦ヤマト」や「銀河鉄道999」と比べると、影の入れ方とか違うんですよ。監督さんも、「アニメーションだから変えようとは思わない、自分のやり方でやる」とおっしゃっていましたので、いい変化が生まれ たのかなと思います。

ただ、アニメーターさんは大変だったみたいです。監督さんが実写の動きをもとに「こうじゃなきゃダメだ」と言うわけですよ。それをアニメでどう表現しようか悩むみたいな(笑)。実写をもとにした光の表現とか、まだあまりやってなかった時代だと思うんですが、今見るとその辺を意識していたのがよくわかります。本当に、セル塗りでよくやったなと思いますよ。

主題歌(*「地球へ…〜Coming Home To Terra」ダ・カーポ/日本コロンビア)もよかったですよね。オリコンにも入って。でも私、あの曲に関してはちょっと恨みに思ってるんですよ。キャンペーンで「耳タコ」でしたし、自分でも歌わされたりしましたから(笑) 「私の前では歌わないで」と、一時期箝口令を敷いたぐらいです。

先日、妹夫婦があの曲の入ったCDを買って、ビックリさせようと車の中でかけたんですよ。もう私は、最初の一音でわかってしまって(笑)。
「イントロクイズに出られるね」と言われてしまいました(笑)。



マンガとアニメの違い

アニメになったといえば、「夏への扉」(*作品初出「花とゆめ」(白泉社)1975年19-20号掲載・アニメ映画:1981年公開・60分・製作:スーパーウッド・演出:真崎守) と「風と木の詩」 (*アニメ版:1987年OVA発売・製作:ヘラルドエンタープライズ・小学館)もそうですね。少女マンガをアニメ化するというのは難しいみたいで、「夏 への扉」の時は描き手が少女マンガのバランスに慣れていないのがハッキリとわかったんですが、「風木」はずいぶんよくなっていましたね。「地球へ…」の場合は、アニメーターの描きやすいキャラクターデザインに変えたので、それほど違和感はなかったんですよ。ちょっと肉感的なキャラで、私は好きでした。マンガとして魅力的なキャラと、アニメで映えるキャラというのは、やはり違うと思いますしね。

「風木」は、総監督は安彦良和さんなんですが、作画監督は女性の方──「シティハンター」のキャラクターデザインをされた神村幸子さんがやってくださっているので、押さえるところはちゃんと押さえられているのではと思います。やはり女性と男性では感性が違うので、どの部分を切り取るか全然変わってくるんですよね。マンガでも、少女マンガと少年マンガでは、絵の見せ方、話の流し方がまるっきり違いますから。

そもそもマンガとアニメでも、絵の表現方法はだいぶ違いますよね。今、安彦さんはマンガを描いていらっしゃいますけど、最初のうちはアニメっぽいなあと思いました。アニメーターさんがマンガを描かれると、動き中心になっちゃうんですよね、どうしても。マンガとアニメって、似ているようで全然違う。特に少女マンガは違うと思います。何しろ動きは無視したりしますからね。そのくせ、「こんなシーンにコマとるなんて」と男性から言われてしまうような部分に紙面を使う。逆に、そういった無駄ゴマが大事……といったところがあります。その無駄ゴマが、アニメでは表現しにくいんですよね。

「風木」のアニメでは、声優さんについても何人もの方に言われました。セルジュの声が、のび太くんと同じなんですよね。ただ、セルジュはうまい人じゃないとできなかったから……。ジルベールは、とつとつと喋るキャラクターなので、わりと若い人でもやれるんですけど、セルジュはなかなか難しいところがあるので、最終的に小原乃梨子さんに決まったんです。でも決まった途端、みなさんに「のび太くんの声の人ですね」と言われてしまって。声優さんというのも大変だなあと思いましたよ(笑)。

(5巻に続く)→【竹宮惠子ロングインタビュー5「天馬の血族:完全版5」2003年



全8巻データ(表紙・裏表紙・奥付)
竹宮惠子「天馬の血族:完全版」2003年

竹宮惠子ロングインタビュー
竹宮惠子ロングインタビュー「天馬の血族:完全版」2003年

対談:竹宮惠子・belne
対談:竹宮惠子・belne「天馬の血族:完全版」2003年

他の作家からの寄稿
Special message to Keiko Takemiya「天馬の血族:完全版」2003年

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